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こんな夢を観た

こんな夢を観た「花を探しに」

作者: 夢野彼方
掲載日:2014/10/10

 夜明けの森で目が醒めた。わたしの脚は、細い木の枝をしっかり掴んでいる。腕だと思って伸ばしたものは、灰色の羽毛に包まれた翼だった。

 わたしは鳥になっていた。魔女の呪いか、それとも森の精に魔法をかけられたのか。

 近くの木のうろで、眠そうな目をしたフクロウを見つける。

「あのう、ちょっとお尋ねします」わたしはフクロウに声をかけた。

「何かね? 悪いが、わたしゃもうそろそろ眠るところなんだ」フクロウは面倒臭そうに言う。

「それが、その……」どう切り出していいやら考えていると、フクロウの方からジーッとのぞき込んできた。


「おや、お前さん、人間だったね? さては赤い実でも食べなすったか」

「えっ、赤い実を食べると鳥になってしまうんですか?」わたしは驚く。確かに夕べ、わたしは赤い実を食べた。けれど、フルーツ・ショップで買ったクランベリーだったはず。

「そりゃあそうだよ。昔から言われていることさ、赤い実は鳥の実ってさ」

「人間に戻るには、どうしたらいいんでしょうか」

「戻りたいのかい、人間に?」不思議そうに首を傾げて聞き返す。

「はい、すぐにでも」わたしは真剣に言った。


「もちろん、方法はあるよ。花を探しておいで。赤い花だよ。それも、ただ赤いだけじゃだめさ。花びら1枚、1枚の先に水玉を付けた、王冠のような花だ。そいつを茎から摘んで、水の玉を落とさずにこの森まで持ってくるんだ。それで、お前さんは人間に戻ることができるよ」

 フクロウにそう教わり、わたしは礼を言って飛び立つ。

 

 森中を探し回り、赤い花を見つけるたびに舞い降りて確かめる。朝露でキラキラと輝く花こそ多いが、花びらの先に水玉を載せたものは見当たらなかった。

 森を出て、湖のそばを飛び回る。

 キャンプに来ている家族がいた。そこにいる4歳くらいの男の子は、わたしをめざとく見つけ、

「あー、鳥さんがいるよっ。ほらー、あそこ飛んでるよーっ」と可愛らしい声を張り上げる。

 わたしは彼の頭すれすれまで降りていって、柔らかな巻き毛を羽風で煽った。

「わあっ、鳥さん、こっち来た。ぼくの頭、なでてった」そう言って、両手をぱたぱたと降って、飛ぶ真似をする。

 わたしは再び高く上がって、湖の周辺をくまなく探す。

 ここにも、お目当ての花はなかった。


 日が高く登り始める頃、わたしは岩山を探索していた。

 ごつごつとした石の間に、小さな花がいくつも咲いている。花達は、夜の寒さから身を守り、空気中の水分を少しでも蓄えようと、茎や葉に産毛をまとっていた。

 鋭い鳥の目でもって探し続けるが、水滴で飾られた花びらの王冠を見つけることはできなかった。

 岩の上で一休みをしていると、2人の登山者がわたしを指差してささやく。

「おや、あれはイワヒバリじゃないだろうか?」

「いや、違うよ。よくごらん、翼はほとんど灰色で、茶色がちょっぴりしかない。ぼくには、ヒヨドリに見えるがなあ」

「なるほど、ヒヨドリか。こんな高いところまで飛んで来るもんなんだな。ひとつ、写真でも撮っておこう」リュックからカメラを取り出すと、わたしに向かって構える。

 シャッターの音が途絶えるまで、わたしはその場に留まった。

 ここにも花はなさそうだ。わたしは軽く羽繕いをした後、ぱっと空へ駆け上る。

「ああ、行ってしまったな。まるで、ぼくが写真を撮る間、待っていてくれたようだったぞ」

「案外、そうかもしれないな」

 2人は笑い合った。


 町で咲く花に、もしかしたら望みの1輪があるかもしれない、そう思ってはるばる訪れる。

 花屋の店先をのぞいてみたり、家々のベランダにとまってもみた。

「あれはセンニチコウ、こっちはケイトウ。八重咲きダリアにポンポンギク。どこも花でいっぱいだ」秋の花々は、鳥になったわたしの目をいまだに楽しませてくれる。

「あら、鳥が遊びに来てるわよ」部屋のテーブルで紅茶を飲んでいた若い女性が小さく声を上げた。

「ヒヨドリのようね」その母親だろうか。カップを置くと、お茶請けのマドレーヌを手に、窓辺へやって来た。「お腹が空いてるんじゃなくて? そら、細かくちぎってあげるから、お食べなさいな」

 彼女の撒いてくれたマドレーヌを、わたしは遠慮なくついばんだ。今の今まで忘れていたけれど、そう言えば朝から何も食べてなかった。

 最後の1かけらまですっかり平らげしまうと、「どうも、ありがとう」と精いっぱいの声で言う。

 もっとも、それはさえずりにしか聞こえなかったに違いないが。


 もう、日が傾きかけていた。町の中に、赤い王冠を見つけることはできなかった。

 わたしはあきらめ、森へ向かって羽ばたく。

 途中、コスモスの咲き乱れる野原に差しかかった。

「むだかもしれないけど、見ておこう」

 白やピンクのコスモスが、まるで花の海のように波うつ。その中にひときわ色の濃い1輪が揺れていた。ほとんど赤と言っていいくらいだった。

「花びらの先っぽに、何かきらきら光るものが――」そっと近づいてみると、それは混じりっけのない水の玉である。しかも、8つの花びら、すべてに載っていた。

「あった、これがフクロウの言っていた花に違いない」わたしは喜び、その茎にくちばしを添える。


 ふと、人間の生活に戻ったことのことを思い浮かべた。

 人間って、そんなにいいものだったろうか。

「人間だった頃、『お前を鳥にしてやろう』と言われたら、とんでもない、と断ったに違いない。けれど、鳥である自分が人間になる理由などあるだろうか? 翼をもがれて、地上を這い回るなんて、今の自分に耐えられるだろうか?」

 いくら考えても、答えは分かりきっているのだった。


 そっとくちばしを緩めると、森を目指した。何も持たず、ただ純粋な気持ちだけを胸に。

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― 新着の感想 ―
[一言] 鳥になったことが幸せだったのですね。運命に抗うことをやめたのではなく、自ら受け入れたのが、なんだか少し切なく感じました。
2014/10/10 19:07 退会済み
管理
[一言] 作品読ませていただきました。すてきなファンタジーの世界ですね。 途中のエピソードも面白いです。 そしてラスト。どんでん返しの上手さに、「うーん」とうなってしまいました。 作者さんはどうやって…
[一言] 始まり方、景色の描写、風を切って飛ぶ感覚、全てに惹きつけられました。こういう不安感とすがすがしさの混じった世界観は、本当に夢野さんならではだと思います。 ちょうど今、赤いコスモスが家の畑に…
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