幼きディール様の大冒険
「やーい、泣き虫ディールー!」
「えぐっ……えぐっ……」
小さな村の中でさえ、1番の弱虫だった。
村の男の子たちに泣かされては、家に逃げ帰る日々。
「また負けたのか。情けない」
父は厳格であり、村で1番の戦士だった。上の兄2人は優しかったが、2人とも屈強な戦士で、何かと比べられた。
「まあまあ、父さん。ディールはまだ小さいんですから」
「小さいといってもな、上の2人はこのぐらいの頃から、同い年のこどもなど複数相手でもなぎ倒していたぞ。誰に似たんだか」
「私に似てしまったのかもしれないねぇ……」
そう言って母は僕の頭を撫でてくれた。
母は魔術師だった。
そして僕にも魔法の才能はあったようだ。
少しずつではあったが、炎を灯し、風を操り、水を凍らせ、土で小さなゴーレムをつくり出せるようになった。
僕も戦える……!
幼かった僕は胸を躍らせた。
でも、魔法は人を傷つけるためのものじゃない。
村のこどもたちに泣かされる日々は変わらなかった。
僕は僕の強さを証明しようと思った。
村を出てすぐのところに、小さな洞窟がある。小さな、といっても、幼い僕にはとてつもなく大きな洞窟だ。
大冒険だった。
迫り来る野生の動物や弱い魔獣ですら、僕には強敵だった。
受けた傷も多く、泥だらけになりながら僕は進んだ。洞窟の奥へと。
そこで僕が見たのは、綺麗な宝石のようなものだった。
透き通っていて、邪悪なものを寄せつけないような輝き。まるで僕を待っていたように思えた。
夢中でその鉱石を掘り出した。手はじんじんしてやがて感覚もなくなっていたが、そんなことはどうってことなかった。
僕にはそれが必要なものだと、信じて疑わなかった。
やっと掘り出したそれを両手で抱え、僕は走った。
僕は、僕は、最初の冒険を成功させた……!
弱くなんかない。
僕は冒険者としての第一歩を、踏み出したのだ。
家に帰ると、母は悲鳴を上げた。
「ぼく、つよいんだ。どうくつに、いってきたんだよ。これが、しょうこ」
なぜか怒られた。1人で危ないことをしてはいけないと。
父は少し嬉しそうだった。
「まだまだだがな。ちょっとは強くなったじゃないか」
もっと、もっと強くなるよ、僕。
持ち帰った鉱石は、光にあてるといろんな色になる不思議な鉱石だった。
僕はとってもすごいものを手に入れたと思った。きっと貴重なものだと。
ところが、それはどこにでもあるような、買おうと思えば安価で買えるものだった。
そのことを聞いて、しばらくは僕から取り上げようとしているのだと思った。街へ行くと、それは高く売られていたからだ。
「細工がされているから高いのよ」
どれもが細やかな美しい細工が施された、鑑賞用のものだったのだ。
鉱石自体には価値はなく、だが美しいからそのような使用法をされる鉱石だった。
僕が手に入れた鉱石は、大事に大事にしまっておいた。
僕の、最初の冒険の戦利品だからだ。
やがて僕も大きくなり、冒険者としてやっていくために村から旅立った。
たいせつな、たからもののほうせきをもって。
それは、旅の途中で出会った風変わりな鍛冶師に、杖の飾りとして埋め込んでもらった。
いまも、ずっと、ぼくのたからもの。