魔竜討伐パーティと少年勇者
古来より、ひとつの伝説があった。曰く、
忘れられた国、白毛に血赤玉の瞳の竜あり。
かのもの目覚めし時、世界は7日7晩の雨に包まれ
世界は終焉を迎えるだろう
…と。
北の魔の国終焉を予知し、阻止せんと各国へと伝令を飛ばす。
西の水の国からは神官戦士が
中央華の国からは狩人姫が
東の炎の国からは騎士王子が
南の雷の国からは盗賊王を継承するものが
魔の国の魔女姫と共に旅立った。
一行は世界各地を巡り、勇者と出会う。
その後、炎の国の王子が生き別れの兄と再会するも、魔竜に唆され、父の死の原因だと偽りの情報を与えられた兄は、弟に復讐せんと牙をむく。
苦難の末、兄弟は義理の兄弟と知り、兄は失われた国の竜王として目覚める。
そしてついに一行は、滅びの竜の住処へと足を踏み入れようとしていた。
「ねえ、まだー?」
「やっと山を降りて来た所ですからね、次の村まではー…」
「半日くらいかなあ」
「そこまでいきませんよ、でも疲れているようならもう少しだけ歩いて休憩しましょうか」
「もう少し!休憩!」
「ゲンキンな奴。ただ歩くだけがそんなに大変か?」
「うっせ!現代のもやしっ子なめんな!」
「…お前の言ってる事さっぱりわかんねーよ」
疲れたとか言ってるのにずいぶん元気だなあ、と先方の青と黄色と小さいのを見ながら思う。
何だかんだで仲良くやれている様で良かった。出会った頃はお互い怒鳴り合いだったもの。
「2人ともそのくらいにしておきなさい。余計に体力を使っちゃうわよ」
「ドーラさん」
「ドーラ」
「姉ちゃん、だってこいつがー」
「はいはい文句言う前に足動かす。ダニエルさんも、そんなに熱心に止めようとしなくても良いんですよ」
「…それは」
水の国の青い神官服を着たダニエルさんは、気まずそうに後ろをちらっと見ると言葉を濁した。その意味するところは、「後ろの連中を視界に入れるのは気が進まない」である。温厚な神官さんらしく、ずいぶん控え目な言い方ですね。
「まあ、後ろの連中相手にするよりは、俺達の口喧嘩の仲裁の方がまだマシだよな」
「これ、ボウ」
理性ある大人たちが一生懸命見ない振りをしているのに、この金ぴか盗賊少年はっ。
「今からでも仲裁に入るー?」
「御冗談を」
即答ですか、ダニエルさん。
「……いつまで、やってんのかなあ?あの3人」
パーティーの最年少の言葉にその場にいた全員が、ギギギ、とぎこちない動作で後ろを振り向いた。
「ふん、その程度で東方最強を名乗ろうとは、炎の国も落ちたものだな!」
「兄さん!」
「もうお止め下さいお二人とも!メイリンは、メイリンは…!」
「ほう、今のは耐え切ったか。ならば受けてみろ!ハアッ!」
「にいさーん!!」
剣撃の音が絶え間なく響く。傍らでは、花の様な美少女がはらはらと涙をこぼしながら…
「ヒール!」
赤いマントの王子に回復魔法をかけていた。
「止める気、ねーだろ。メイリン」
「ご自分に酔ってらっしゃるのでしょう」
「なんというカオス」
そういう自分達も止める気は、というか、参加する気は一切ない。
「今日は下山する前からだったわね」
「ほぼ半日かー、よく体力持つよな」
「ああ見えてメイリンさんて凄いんだなあ」
最年少の子の瞳が、心なし輝いた気がしてあわてて釘を刺した。
「見習っちゃダメよ。ダイチ」
「はーい」
いい返事ねえ。
「あっ」
「えっ!?」
脇から驚いた声がして慌てて戦闘中の方を見る。ちょ…っ、
「おおー!」
「ドラゴン召喚キター!」
あああああ、もう教育に悪いじゃない!子供達の目が完全に旅芸人のショーを見る目になってるわよ!
「ドーラさん!」
「分かってます!」
愛杖と符を構えて略式呪文を唱える。
「火炎弾!」
強力召喚を阻止するためにはこれくらいしないと止まらない。
ボウンと鈍い音が辺りに響いて、熱風が肌を撫でた。
当たった先の3人は、ようやっとこちらを認識したらしい。ぶすっとした表情で見返してきた。
何か言い返そうとする前に、こちらの説教が火を噴いた。
「2人とも、いいかげん兄弟喧嘩は止めなさい!」
大の男が2人揃って何か詰まった顔をした。
「そ、そうですわ、わたくしずっとそう言って」
「止めるつもりがあるのなら回復呪文掛け続けない、メイリン」
びしっと言うと、王子が怪我するの見てられないとか、もじもじと。
火属性に弱いお姫様を庇うように東の国の王子が抱えている。かと思うと、また二人の世界が出来上がった。ああもう、勝手にやって下さいよ。
「うわ、でたよバカップル」
うぇ、あめえ、とダイチが舌を出した。と思ったらこっちを見て、
「姉ちゃんは良いの?」
「良いのって、なにが」
「あんなふうにべたべたしたりしたくならないのかなって」
……なんてこと言うのかこの子供は。
「それは俺も聞きたいな」
……ダイチの言葉を借りれば「くうきよめ」だろうか。
火属性無効の弟と違って兄は特に抵抗はない。ただ、背中から出した頑丈な竜の翼で防いだらしい。
覚醒がつい最近だったくせに使いこなしてやがる、とついでに昔のことまで余計に思い出して、ちょっとムっとなった。
「で、どうなんだ」
「あ」
不意に手を掴まれた。え、あれ、力が入っていないように見えても振りほどけない。思わず何度も顔と手を見比べる。わ、笑わないでよ。なんでそんな嬉しそうなの。
「ぼちぼち先進むか」
「姉ちゃんおさきー」
え、え、何皆して置いていこうとしてるのよ。慌ててついて行こうとしても、目の前の大きな体が邪魔で進めない。というか、手!
「たまには甘えてみるのも良いものですよ。15年ぶりの再会なのでしょう?」
ダニエルさーん!!
「らぶらぶちゅっちゅすればいいよ」
「誰、そんな言葉教えたの!」
ほんとにこのお子さんはっ!
「元の世界なら誰でも知ってるよ」
「嘘ーっ!」
後に伝説は語る。
異界より来たりし勇者は当時11歳。ショウガクセイであったとされる。
その明るさと、快活な様子から誰にでも好かれ、人に牙をむいた魔物ですら懐き従えたという。




