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第七話

「もう、すっごく格好良かった!」

 月曜日のお昼休憩。水華と二人でお弁当を食べながら、私は昨日の練習試合の余熱も冷めないまま、健矢君の格好良さを熱く語っていた。そんな私を、水華は仕方がないといった感じで見つめてくる。呆れたような顔をしているものの、水華はしっかりと私の話を聞いてくれた。

「よかったねぇ。」

「うん、うん!」

 昨日の健矢君は、本当に格好良かった。相手のディフェンスを華麗にかわし、流れるようにシュートを決める姿。ゴールを決め、仲間と笑い合う姿。相手にゴールを入れられ、悔しそうにする姿。そのどれもがキラキラと輝き、とても素敵だったのだ。

「・・・それでね、水華。」

「うん?」

 練習試合があった、その日の夜の事。私は一つの決心をしていた。

「私、健矢君に告白しようかと思ってるんだ。」

 実を言うと、これは私の初恋で、私は初めて異性を好きになったのだ。健矢君を想う気持ちはどんどん溢れ、それが昨日の練習試合を観て、心に治まりきらなくなってしまった。

「そっか。」

 私が告白に踏み切るとは、思っていなかったんだろう。水華は少し驚いているようだが、直ぐに賛成してくてた。

「そうと決まれば、早い方が良いわね。今日の放課後、告白しなさい。」

「えっ!?今日?」

「そうよ。あんたの事だから、いつ気持ちが変わるか分ったもんじゃないしね。今は昨日の練習試合の余熱で、気持ちも高ぶってるだろうし。このままの流れで告白しちゃいな。」

 確かに優柔不断な私は、いつ気持ちが変わるか分からない。明日になれば、告白しようとする気持ちも薄れているかもしれないのだ。

 それにしても今の水華、何故だかすごく活き活きとしている気がする。

「それじゃあ、今日の部活後にね。健矢には話しておくわ。」

 話の展開が早い水華に呆気に取られるも、私は少しドキドキし始めていた。告白なんて、何か女子高校生みたいだ。いや、実際に私は女子高校生なのだが。

 色々考え過ぎて頭がパンクしそうな私だが、今まで活き活きとしていた水華の雰囲気が、急に変わった事に気づく。不思議に思い水華の方を見ると、水華も静かに私を見つめてきた。先程の溌剌とした感じは、すっかりと無くなっている。

「・・・凛。」

「どうしたの?」

 楽しそうにしている私を見て、水華が少し表情を曇らせる。

「ううん、何でもないわ。今、言うべき事じゃない。」

 珍しく歯切れの悪い水華を不思議に思いながらも、私は始めての告白で胸がいっぱいだった。



 そして放課後。私は、健矢君の部活が終わるのを教室で待っていた。水華には、練習を見ながら待っていればいいのにと言われるも、愁斗と顔を合わせるのが嫌で断ったのだ。

 放課後の教室には、部活動に精を出す生徒達の掛け声が響いてくる。夕日も差し込み、いつになく穏やかな時間だった。告白前というのが嘘みたいだ。

「おう、堺田。遅くなってゴメンな。」

 告白前だというのに、のんびりとしていた私の所へ、ジャージ姿の健矢君が部活を終えてやって来た。健矢君の姿を見た途端、私の心臓は凄い勢いで鳴り始める。やばい、凄く緊張してきた。

「水華から聞いたんだけど、俺に話があるんだって?」

「・・・うん。」

 そう言って健矢君は、私の方に近づいて来た。

「あのね・・・」

「どした?」

 中々話を切り出さない私に、健矢君はイライラしたりせず、優しい笑みを浮かべてこちらを見つめてきた。もう、その仕草だけで格好良く見える。

 中々煮え切らない私だったが、健矢君のその笑顔を見て、とうとう決心する。

「私ね、健矢君の事好きなんだ。」

 それが、今私に出来る精一杯の告白だった。緊張し過ぎて、顔を上げられない。きっと今の私の顔は、驚くほどに真っ赤になっているだろう。

 いつまで経っても健矢君からの返事は返って来ず、私は沈黙に耐え切れずに顔を上げた。健矢君は、とても驚いた顔をしていた。

「・・・堺田が、俺の事。全然気づかなかった。」

 それは、そうだろう。私は愁斗と姉弟になってからというもの、自分の気持ちを隠すのがとても上手くなったのだ。健矢君が気がつかなくても不思議ではない。しかしそう考えれば、私の気持ちに気づいてくれた水華は、本当に凄いと思う。私の事をよく見てくれているのだと実感し、とても嬉しくなった。

 考えが少し脱線してしまったが、今は健矢君の気持ちが聞きたい。そう思って健矢君を見ると、健矢君は少し困ったような顔をして私を見てきた。嫌な予感がする。

「・・・ゴメン。」

「・・・そっか。」

 駄目だった。先程の健矢君の困っている様子を見た瞬間、そうではないかと思ったのだ。

 断られる覚悟で告白したので、それ程落ち込む事はなかったが、少し悲しかった。しかし自分の気持ちを隠す事が上手かった私がコロコロと表情を変え、更に好きだという気持ちを相手に伝える事が出来た。初恋が成就しなかった事は悲しいが、私は少し誇らしく晴々とした気持ちになったのだ。


 健矢君の次の言葉を聞くまでは。


「・・・うん、何て言うのかなぁ。愁斗。あいつの姉だと思うと、なんかそういう事考えられないかも。悪い。」


 頭の中が真っ白になった。健矢君は今、何て言ったのだろう。愁斗?何故、今此処で愁斗の名前が出てくるの?サーっと、血の気が引いていくのが分かる。気分が悪い、吐きそうだ。

 どんどん顔色が悪くなっていく私を見て、健矢君は少し慌て出す。

「いや違う!愁斗は関係ない。堺田は本当に良い子だと思うよ。一緒に居て、すごく楽しいし。でも恋愛対象としては見れない・・・ゴメン。」

 健矢君は必死にフォローするも、一度放った言葉は取り消せない。先程の健矢君の言葉は、私の心に深く突き刺さっていた。

「・・・ううん、いいよ。気にしてない。突然ゴメンね。」

 確かに傷付きはしたが、私は健矢君を責めなかった。きっと、慣れてしまっているのだ。私の心の中では、またかという文字が浮かび上がっていた。

「それじゃあね。呼び出しなんかしたりしてゴメンね。」

「・・・あぁ。」

 健矢君の顔を見ていられず、私は逃げるようにして教室から出た。泣きたいのに、涙は出てこない。諦めに似た感情が、私の心の中を渦巻いていた。

 暫らく歩いていると、見慣れた人影が目の前に立っていた。先程の私達のやり取りを見ていたのだろうか。其処には、悲しそうな顔をした水華が立っていた。

 私は水華に抱き付いた。水華は何も言わずに、私を抱きしめ返してくれた。

ここまで読んで下さって、ありがとうございます。

回想シーン、予想以上に長引いております。もう少し、お付き合い下さい。

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