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第三十一話

少しR15的な表現が入っているかもです。

ご注意下さい。

「でもまぁ何にせよ、他の島を探すしかないね。」

 ロディはそう言うと頭の後ろの方で腕を組み、壁に凭れて目を閉じた。おい、まさか寝るつもりじゃないだろうな。

 真剣な話し合いの最中に眠ろうとする自由人なロディに目を瞬かせていた時、一番最初に話したきり沈黙していたメース君がゆっくりと話し出した。

「船長、その事で少しお話があるのですが。」

 メース君の言葉に、皆が注目する。眠ろうとしていたロディも、片方の目を開けメース君を見ていた。

「ネス島からの帰りに隣にあるトラス島に寄ってみましたが、この島は感染には至っておりませんでした。ネス島から近い分些か気になる点は幾つかありますが、行ってみる価値はあると思います。」

「トラス島か。確か、マクティルの栽培が盛んな島だね。」

 そう言って、ロディは私の方に目配せをしてくる。く、マクティルか。嫌な思い出が沸々と思い出され、私は思わず眉を寄せた。というか、その諸悪の根源であるお前がこっちを見るな。

「決まりだな、船長。」

 私が半目でロディを睨んでいると、今まで聞き役に徹していたレスがそう言った。何かを思案しているような感じのセインであったが、そんなレスの言葉にすぐに頷く。私は思わず胸が高鳴った。

 どうやらこの船は、トラス島とやらに向かうらしい。メース君が気になる点は幾つかあるとは言っていたが、そこは未だに感染の及んでいない平和な島。この世界に来てからその殆んどを船の上で過ごしていた私にとって、島へ行くという事実は楽しみで仕方がなかったのだ。この世界の人々や文化、雰囲気などをもっと良く知るチャンスだ。この世界にやって来た時にも地上には居たが、あれはもう怒涛の連続で、とてもじゃないがこの世界をゆっくりと観察する事も出来なかった。というか、森と浜辺と海しかなかったからね。

 そういえば私が居た大地は、大陸と島のどちらだったのだろうか。心の中で小さな疑問が湧き上がったが、そんなに深く考える事でもないだろうとその考えは直ぐに消し去った。

 話は変わるが海賊達の様子を見ていると、何やら島への上陸を急いでいるようにも見える。もしかすると、もう食料がないのだろうか。私がこの船にやって来た時には宴を開いてくれたし、普段の食事でも特に節約していたようには見えなかったが、実は結構危ないのかもしれない。

 そう思いセインを見上げると、彼は私の考えを見透かすかのようにこう言った。

「食料が底を尽いている訳ではないのさ。寧ろ食料は真空と空間の魔術で、何年分も保存してある。島へ行く一番の理由は、皆の息抜きの為さ。人間とは、脆い生き物でな。こうも長い間船という密閉された空間の中に居ると、不平不満が生まれくだらない争いが起きてしまう。まぁそれだけで済めば良いが、度が過ぎると発狂してしまう者まで現れる事もある。精神力の弱い人間なら、尚更な。」

 確かに。まだ一週間程度しか船に乗っていない筈の私ですら、もう既に退屈になってきている。今の私の状態でこうなのだから、長い間船に乗っている彼等はもっと退屈な事だろう。

 些細な事でも、問題を起こさない為にも、きっとこうした気分転換が必要なのだ。

「そうさ、息抜きは必要だね。欲求不満で男同士で問題でも起こされたら、こっちは同じ船の上、不快だからね。」

 男同士で問題って・・・く、ロディめ。わざわざそんな、もしかすると本当にあるかもしれない海賊達の裏事情を教えてくれなくてもいいのに。というか、そんな男達の中に一人でいた女の私って、もしかすると本当に危ない状況だったのかもしれない。よく一人で船内を探索しようとか考えたな、私。今更ながらに、妙に寒気がしてきた。

 何となく皆の顔が見れなくて下を向いていると、突然セインに抱え上げられた。少し驚きはしたが、もう何度も体験している事なので然程驚きはしなかった。慣れって怖いな。

「島に行くのが、楽しみか?」

「うん!」

 私の顔を覗き込むようにして、セインが聞いてきた。島に行く事が本当に楽しみな私は、正直に答える。とりあえず先程の事は、あまり深く考えない事にしよう。

 そうやってセインに抱え上げられながら笑っていたのだが、何処からともなく視線を感じそちらの方に目をやった。視線の正体はメース君で、こちらをじっと見つめていたのだ。

 そのまま暫く私を観察していたようだったが、何か意を決したかのようにセインに話し掛けた。

「あの船長、その人は一体?」

 あ、私に対しての口調が丁寧になっている。先程まで、私の事を『あんた』と言っていたのに。まぁ、それも当然なのかもしれない。何せ幹部だけの話し合いに紛れ込み、あまつこの船で一番偉い船長のセインに抱え上げられているのだから。何か途轍もなく、重要な人物だと思われたかもしれない。全然そんな事ないのに。

「あぁ、そうだな。お前は知らぬのだったな。こやつはリン。異界の乙女さ。」

「異界の乙女?あの世界を平和に導くとかいう…この人が?」

 無表情な筈のメース君が、疑わしげにこちらを見ている。パッと見ただけでは分かりにくいが、何故だか私には分かる。『え、こんな普通の女が?』って、思っているに違いない。えぇ、えぇ、その通りですよ、間違いないですよ。極々普通の一般ピープルですとも。

 そんな風に一人で不貞腐れていると、隣からセインの含み笑いを感じた。思わずセインをジト目で睨むも、彼は何処吹く風といった感じで私の視線を軽く受け流す。く、腹立つな。抗議の意味を込めてセインの髪の毛を軽く引っ張るも、彼は特に気にした様子もなく幹部達の方へと視線を巡らせた。視界の端でメース君が少し驚いているようにも見えたが、あまり気にしないでおこう。


「トラス島に向かうぞ。」


 セインの言葉に、幹部達はしっかりと頷いた。それにつられて、思わず私も頷く。部屋の空気が、何となく軽くなったような気がした。



 こうしてセインの海賊船は、トラス島へと航海を始めた。何も考えずにヘラヘラと笑っていた私には、思いもよらなかった。それがこれからの私の運命を大きく決定付けるとも、狂気が渦巻く運命への第一歩になるとも知らずに。

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