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第三十話

 あれから私はセインや幹部達、それにメース君と共に、甲板から船内にある大部屋に移動していた。何やら話し合いのようなものが始まるみたいで、皆の間に少し真剣な雰囲気が漂っている。果たして、部外者の私が此処に居て良いのだろうか。少し気まずくなりコソコソと退散しようと出口に向かったのだが、その思惑はセインに襟首を引っ張られる事によって阻止されてしまう。ぐぇ、何をするのだ。少し首が絞まったではないか。折角私が気を利かして出て行こうとしたのに、なんという仕打ちだ。ジト目でセインを睨むも、彼は何処吹く風といった感じで私の視線を軽く受け流した。く、腹立つな。

 そんな私達のやりとりを、どうやらメース君に見られていたらしい。思い切り、目が合ってしまった。無表情なので定かではないが、多分自分が居ない間にしれっとこの海賊船に紛れ込んでいる怪しさ満点の私を見定めているんだと思う。何せ、この幹部達の集まりにも紛れ込んでいるくらいだからね。そりゃあ、誰だって怪しいと思うわ。

 暫らくの間私の事をガン見していたメース君だったが、不意に私から視線を逸らしセインの方に目をやった。とりあえず私の存在は、一端隅っこに置いておこうと考えたのだろう。彼は小さく息を吐くと、ゆっくりと話し始めた。

「ネス島は、もう駄目でした。」

 彼の言葉に皆が注目し、緊迫した空気が漂い始めた。

「感染が広がっている。島を一通り回りましたが、無事な者はいませんでした。インフェクターの中には、症状が表に出るのが遅い者もおります。恐らく島にやって来た航海者の中に、感染していた者が居たのでしょう。そこから、島に入り込んだと思われます。」

「やっぱりね。メースの帰りが遅いから、そんな事だろうと思ったよ。」

 そう言ってロディはケラケラと笑っていたが、メース君の言葉に幹部達は深刻そうに目を細めた。セインに至っては表情は変わらず、何も読む事は出来なかったが。

 まぁ、あれだ。何の事情も知らない私だったが、何となく話の流れが掴めてきた。恐らくメース君は、何処かの島に偵察に行っていたのだろう。この本船がその島に上陸する前に、先にそこへ行って様子を探るという役目を彼が担っていたに違いない。そして安全だと確認出来た場合には、その島へ上陸。少しでも危険を減らす為の最善の方法だが、今回は彼の報告からして安全ではなかったという訳だ。きっと、その島への上陸は中止となるだろう。

 最近は平和な船の上にいた為につい忘れがちになっていたが、やはりこの世界は崩壊の危機に面しているのだ。感染が広がっている。絶望が、恐怖が、狂気が広がっている。

(あれ?)

 そこまで考えた私に、ふと疑問が湧いた。確かセインは、感染は世界に広まったと言っていた。陸にはインフェクターだけが残り、助かったのは船に乗って海へと逃げ延びた者だけだと。このセインの言い方では大地はインフェクター達に占領され、感染していない者は地上へは帰れず船の上での生活を余儀なくされているような言い方だ。それなのにネス島は最近まで無事で、人が居たらしい。感染していない者は、船の上で生活していたのではなかったのか。それともまだこの島のように、感染の及んでいない安全な島が存在しているのだろうか。

 一人うんうんと悩んでいる私を見て、イストが苦笑を漏らす。

「この世界で人とは、陸の者と海の者の二つに分けられるのさ。」

 私の頭を軽くポスポスと叩きながら、イストが話し出した。

「この世界で大陸とは、ドーナ王国が存在する広大なエイス大陸しかない。この大陸が、世界の殆んどを占めている。あとは大小違えど、その周りに無数の島が点在しているだけ。エイス大陸に住んでいる者を陸の者、島に住んでいる者を海の者と呼ぶ。もちろん主に島を拠点としている我ら海賊も、海の者に分類されている。」

 大陸が一つしかないなんて、なんて変わった世界なんだろう。

 イストの手の温もりと重みを頭で感じながら、私は話の内容を理解しようと真剣に聞いていた。

「陸の奴等曰く、海の者は野蛮で汚らわしいそうだよ。まあ、否定はしないけどね。そして自分達陸の者は高貴な存在だと、俺達海の者を見下しているのさ。奴等陸の者にとって、世界とはエイス大陸。その他、つまり海の者が住む島は、何の価値もないゴミ同然で世界の一部とすら思っちゃいない。まぁ別に、俺達は奴等にどう思われようと構わないけどね。」

 なるほど。ロディの言葉で、先程の疑問の答えが解ってしまった。それでセインは、あえて感染は『世界』に広まったという言い方をしたのだろう。いや実際に島にも感染が広がっているようだから、あながち間違いではないが。

「金、権力、身分、出世、差別。これらが渦巻く愚かな『世界』など、微塵も興味はない。大陸が滅ぶのも結構。船に乗り、生き延びた者がどうなろうと知った事ではない。」

 そう言ったセインの瞳はとても冷たく、本当にどうでもいいと考えているような瞳だった。それに以前セインは、一応この世界の救世主であるらしい私を陸の奴等に渡すのは面白くないと言っていた。これは海の者と陸の者、相当な確執があるようだ。

「だが陸の奴等のせいで、島にも感染が広がりつつあるこの現状は頂けない。」

 そう言ったセインの目付きが、更に鋭くなる。

「今まで汚らわしいと見下してきた我ら海の者に、今更救いを求めるなど言語道断。エイス大陸、つまり奴等陸の者にとっての『世界』は滅びつつある。ならばそれに従いその世界の住人である奴等も、その世界と共に滅びゆくが自然の摂理というものよ。」

 今まで逃げ延びた人々は船の上で生活しているのだと思っていたが、船の上だけで生活していくのには食料などの問題で限りがある。何処か必ず、拠点となる大地が必要になってくるのだ。逃げ延びた人々は、きっと島に救いを求めたのだろう。今まで散々見下し世界の一部とすら思っていなかった癖に、自分達が窮地に陥った時だけ都合よく助けを求めてくる陸の人々を、海の者である彼等は許せなかったに違いない。ましてやそれが、島にも感染が広がるという結果を招いているのだから尚更だろう。人の気持ち、想いとは、そんなに簡単なものではないのだ。

 皆の顔を見渡しながら、私はそんな事を考えていた。

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