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第三話

「おお・か・・み?」

 暗い暗い闇の中に現れた、一筋の銀色の閃光。深い深い蒼い瞳の銀色の毛並みをした大きな狼だった。悠然と立つその様は、とても凛々しい。思わず、その狼に見惚れてしまう。

(なんて、綺麗な狼。)

 私が見つめていると、狼もジッと私を見つめ返してきた。数秒だったに違いない。しかし私には、とても長い時間見つめ合っていたように感じられた。

「あぁ、ああぁ。」

 不意に声が聞こえ、私も狼も声のした方を振り返る。先程この狼によって倒された男が、ゆっくりと立ち上がり、残りの二人と共にこちらに向かってユラユラと歩いて来ていたのだ。

「ひぃっ!」

 思わず、蛙を潰したような声が出た。突然狼が現れた事により、奴等の事をすっかりと忘れていたのだ。私も先程の男性のように、見るも無残に食べられてしまうのだろうか。そう思いガタガタと震えていると、私を守るかのように、狼が奴等の前に立ち塞がった。牙を剥き出しにし、低く唸り威嚇するも、奴等はそれに怯む事なくこちらにやってくる。

「あっ!」

 狼が動いたのだ。奴等に向かって駆け出し、思い切り体当たりする。狼の鋭い突きに倒れた男を踏み越え、別の男が狼に手を伸ばすも、狼はしなやかにそれをかわし、再び体当たりを繰り返す。

(す、すごい・・・でも、あれ?)

 目の前で繰り広げられている戦闘に驚嘆するも、少し違和感を抱く。

(あの狼、奴等を傷付けないようにしている?)

 狼は牙を剥き出し、奴等に飛び掛ってはいるものの、決してその鋭い牙や爪を使う事は無く、体当たりばかりを繰り返している。どうしてだろう。そんな疑問を抱いていると、狼がこちらにやって来た。そして体を低くして、鼻を自らの背中を指すように振って、こちらを見つめてくる。まるで、背中に乗れと言っているようだ。

「・・・いいの?」

 狼に倒された奴等が、呻き声を上げながら再び立ち上がろうとしている。すると、狼は早くしろとでも言わんばかりに小さく唸る。

「っありがとう!」

 私が跨ると、狼は勢い良く走り出した。突然の事で振り落とされそうになるも、しっかりとしがみ付く。綺麗な毛並みなのに、思い切り引っ張ってゴメン。きっと痛いに違いない。それに、いくら狼が大きいからと言っても、人一人が乗るには少々厳しいかもしれない。そんな心配をよそに、狼はどんどんスピードを上げ、あっと言う間にあの三人から遠ざかる。苦しそうではないが、息遣いが荒くなってきている。

(ゴメンね。)

 私は心の中で謝った。三人の姿が見えなくなり大分離れたが、狼は走りを止めない。それから暫く、狼は走り続けた。



 あれから、どの位走り続けたのだろう。重い私を背中に乗せて全力疾走している狼の方が、辛いに決まっている。しかし私は、狼に振り落とされないよう必死にしがみ付いているだけで、疲れに疲れヘトヘトになっていた。狼に申し訳ない。

 不意に狼が、走るスピードを落とし歩き始めた。安全な場所に来たのだろうか。申し訳なさもあり、私は狼の背中から降りようとするも、狼は低く唸り、それを制した。まるで、面倒くさいから乗っていろとでも言わんばかりの唸り方だ。うぅ、ゴメンなさい。

 そのまま暫く歩いていると、微かに塩の香りがしてきた。私は、それを嗅いだ事があった。これは・・・

「海?」

 森を抜けると、其処には海が広がっていた。白い砂浜を、狼はゆっくりと歩いていく。後ろを振り返ると、不気味な森が広がっており、砂浜には狼の足跡だけが残っていた。狼は海の直ぐ傍まで歩いていくと、立ち止まってこちらを振り返った。私はゆっくりと、狼の背中から降りる。今度は狼は止めようとしなかった。狼から降り、二、三歩程歩いた所で、私は砂浜に崩れ落ちた。

「あ、あれ?」

 体に力が入らない。森の中を彷徨い、狂気に狂った三人組みには追い掛けられ、また、狼に振り落とされないよう必死にしがみ付いていた私の体力は、等々限界を超えてしまったらしい。本当に、体を動かす事が出来なかった。

 狼は、海の方を見ていた。私も狼につられて海の方を見ると、突然目に光が差し込んできた。どうやら、夜が明けたらしい。水平線から昇ってくる日の光に目を細める。

(綺麗。)

 美しい日の出に目を奪われていると、遠くの方で一隻の船が見えた。その船は、どんどんこちらに近づいてくる。

(とりあえず、助かったのかな。)

 そんな事を考えながら、私は意識を手放した。だから気づかなかったのだ。船に掲げられた大きな旗に、大きな髑髏が描かれていた事を。

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