第二十七話
第二十七話が第二十六話に比べて随分と長くなってしまったので、第二十七話の冒頭を第二十六話の最後に継ぎ足しました。お手数ですが、以前に第二十六話を読まれた皆様、もう一度第二十六話のご確認をお願い致します。面倒くさい事をしてしまい、申し訳ありません(汗)
「魔術時代のこの世の中、やはり差別は存在します。魔力の強い者は、魔力の弱い者を見下し虐げる。もちろん、魔術師全員がそうだったのではありません。現に、セインは私を拾ってくれました。つまらぬ愚考が漂う人間社会に囚われている私を、愚かだと笑って。」
「・・・どうして、それを私に?」
アロンの魔力が弱い事は、彼の髪の毛と目を見た時から薄々と気が付いていた。差別問題の事もあるし、魔力が弱い事は誰にも知られたくない話の筈だ。増してや、見くびられないように医者になっただなんていう話は尚更だろう。しかしどうしてそれを、知り合ったばかりのよく知りもしない私に話すのだろうか。
彼の意図が知りたくて、私はアロンを見つめる。すると彼は、小さく息を吐き出しながら話し出した。
「さあ、どうしてなんでしょうね。もしかすると私と同じような色をしているあなたにだからこそ、つい魔が差して話してしまっただけなのかもしれません。」
私がアロンに初めて会った時、馴染みのある色合いの彼を見て少し親近感を感じていた。まさか、アロンも私と同じような事を考えてくれていたとは。
彼はきっと、私の想像も付かない壮絶な過去を体験してきたのではないだろうか。そんな私の考えを見透かすかのように、アロンは小さく笑っていた。
そんな彼を見て、私も意を決し静かに話し出した。
「・・・私は頭が悪いからこんな簡単な言葉しか出てこないけど、やっぱりアロンは凄いと思うよ。」
私がそう言うと、アロンは真っ直ぐに私の目を見つめてきた。
「確かに私の世界には魔術なんて存在しないし、それが理由で理不尽な思いなんてした事がない。それでもやっぱり差別は存在するけれど、私はそれを受けた事もない。」
一端話を区切り、私は姿勢を正す為に軽く椅子に座り直した。そして、小さく深呼吸する。
「でもね、私って何もかもが普通だったんだ。頭や運動神経が良い訳でも悪い訳でもない。顔だって不細工ではないと思うけれど、これといって可愛くもない。性格に至っては、捻くれてて最悪だと思う。そんな普通で面白くもない自分が、凄く凄く嫌で認めたくなかった。でも嫌って思うだけで、自分で変わろうとも努力しないで、周りの皆の所為にばかりしてたんだ。」
健矢君や水華、そしてお母さんが離れていってしまった事を愁斗の所為にばかりしていた。きっと自分にも問題があった筈なのに。本当に私は、性格が捻くれている。
「この世界に来てからは、それじゃあ駄目だって思うようになったんだけど、そう思ってるだけできっと私は何も変わってない。今元の世界に戻ったら、きっとまた周りの皆の所為にして逃げてしまうと思う。でもアロンは違うでしょう?」
自分の魔力が弱いという事をしっかりと理解し受け入れて、世間で魔術が発達しているというだけで理不尽な思いをしているその状況を打破する為に医者になった。逃げてばかりいる私には到底真似も出来ないし、本当に凄い事だと思う。
私がそう言うと、アロンは突然下を向き俯いてしまった。はっ、私ってば、ついつい偉そうな事を言ってしまったのかもしれない。
「ア、アロン・・・」
焦ってアロンの名前を呼びながらアタフタし出すと、彼は肩を震わせクツクツと笑い出した。突然の出来事に、私は思わずポカンとなる。
「いやぁ、すみません。まさかそんな事を言われるとは思ってもみなくて。」
笑い過ぎて目尻に浮かんでいた涙を拭いながら、アロンはそう言った。果たして私は、何か涙が出る程の可笑しな事を言ってしまったのだろうか。
首を傾げている私を見て、彼は再び笑い出す。
「大丈夫ですよ。そういう事を考えられるリンもきっと・・・」
そう言ったきり、アロンは口を閉ざしてしまった。続きが少し気になったが、爽やかに微笑んでいるアロンを見て何も聞けなくなってしまった。まあ、いいか。
アロンと二人でニコニコと微笑みながら穏やかな雰囲気が流れてたのだが、突如私はある事に気づいてしまい急に冷や汗が流れ出す。
「ちょっと待って、アロン。さっき、怪我や病気を治癒させる事は出来ないって言ってたよね。それじゃあ、インフェクター達はどうなるの。どんなに傷を負っても直ぐに治癒してしまうんでしょう?」
私がそう言うとアロンも真剣な表情となり、こちらを見つめてきた。そして少し躊躇っているようにも見えたが、何か意を決したかのように静かに話し出す。
「・・・破壊する事は容易いも、創造する事は難しい。これは自然の流れ。攻撃の魔術に比べて、癒しの魔術には明らかに限界があります。これは生命の循環に、深く影響を及ぼさないようにする為だと私は考えています。」
そこで一旦言葉を区切ると、アロンは少し表情を険しくした。
「いいですか、リン。インフェクター達が異常なのです。彼等は生命の轍から、大きく外れ過ぎている。ホーメロ。彼が一体どのような魔術を開発し、そしてインフェクター達にそれを施したのか。全ては謎のままですが、何か取り返しのつかない強大で恐ろしい事が迫ってきている。私はそう感じています。」
もしかしたら、もう既に手遅れなのかもしれませんね。そう言って、アロンは自傷気味に笑っていた。