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第二十五話

 セインから貰った海のクォーツは、イストに預ける事となった。何でもイストは顔に似合わず細かい作業が得意らしく、クォーツに細工を施してくれるというのだ。いやぁ、ダンディなオジサマとは思っていたが、まさかそんな気障な事まで出来るとは。きっと今までに、この方法で多くの女性を口説き落としてきたに違いない。間違いない、断言出来る。

 あの後何もする事がなくなった私は、船内をプラプラと歩いていた。映画なんかで見た海賊船のイメージとは違い、船内は以外と綺麗に片付けられていた。もっとゴチャゴチャとしていて、汚いイメージだったのだが。一体、誰が片付けているのだろうか。セインやイストが片付けているイメージは、全くもって浮かばなかった。やはり、下っ端の海賊達の仕事なんだろうか。

 そんな呑気な事を考えながら歩いていると、通路の突き当たりを曲がった瞬間に誰かとぶつかってしまったのだ。鼻を押さえて見上げた先には柄の悪そうな二人の海賊がいて、まるでこちらを値踏みをするかのような眼差しで見下ろしてきた。先程の考え事の登場人物、下っ端海賊だ。

「はっ、誰かと思えば、異世界の救世主様ではございませんか!」

「このような所で、お一人でどうなされたのでしょうか~?」

 わざとらしい敬語を使いながら、二人は距離を詰めてくる。掃除担当にしてしまったのが、彼等の気に障ったのだろうか。

(ヤバイ、ヤバイ!)

 急に冷や汗が流れ出す。ニヤニヤと厭らしく笑う二人に激しい嫌悪感を抱き、私は後ろへ下がるも場所が悪かった。曲がり角を曲がった所だったので、私の背中は直ぐに壁に当たってしまう。横に移動しようとするも、二人の海賊はすかさず私を取り囲んだ。目の前には二人の海賊、後ろには壁。絶対絶命だ。

「一人で居ても、つまらないでしょう。どうです。私達の部屋に来ませんか?」

「丁重に、おもてなし致しますよ~?」

 そう言って一人の海賊に腕を掴まれた瞬間、全身に鳥肌が立った。気持ち悪い。セインやイスト、ロディに触られた時は、何ともなかったのに。彼等は私を、こんな目で見なかった。その違いなんだろうか。

 掴まれた腕を必死に外そうとしながら、私は以前セインが言っていた言葉を思い出す。


――女に飢えている奴等が殆んどだ。何があっても責任は取らぬ。――


 船内を探索しようとしていた私に、イストも言ってくれた。あまり、一人でウロつかない方が良いと。何故二人の忠告を、きちんと聞かなかったのだろうか。今頃になって、後悔する。

「ちょ、離してっ!」

「そんなに怯えなくでも、大丈夫ですよ。」

「優しくしますからね~。」

 何が優しくだ。私は必死で暴れるも、相手はビクともしなかった。それも、そうだろう。相手は男の海賊で、私は極々普通の女。力で勝てる筈がなかった。

 非力な自分が悔しくて、涙が出そうになった時だった。海賊達の動きが、急に止まったのだ。不信に思い海賊達の顔を窺うと、彼等は私の後ろの方に視線を向けたまま固まっていた。その視線につられて、私も後ろを向こうとした時だった。

「これは一体、どういう事なんでしょうね。」

 そこに居たのは、なんとアロンだった。宴の時に見た穏やかな表情とは裏腹に、その目付きは鋭く冷淡な微笑を浮かべている。私を見ている訳では、ないと思う。しかしそのあまりにも冷たい表情に、下っ端海賊二人と同様に私まで氷のように固まってしまった。

「彼女は、船長のもの。それに手を出して、ただで済むと思いますか?」

「アロンさん、誤解だ!俺達は、手を出しちゃいない!」

「『まだ、手を出しちゃいない』の、間違いでしょう。私が来なければ、あなた方は確実に彼女に無体を働いていた。」


 私は、セインのものなんかじゃないんですけど!


 そう抗議したいのは山々だったが、冷淡な微笑を浮かべながらこちらに近づいてくるアロンを見て、そんな考えは何処かへ吹き飛ぶ。その笑顔、怖っ!目が笑ってないもん。

「それ相応の罰は受けてもらいます。」

「ア、アロンさ・・・」

「目障りです。今すぐ去りなさい。」

 アロンの容赦ない一言に下っ端海賊二人は、ヒィっと悲鳴を上げながら走り去っていった。

 辺りに沈黙が訪れる。アロンは、今どのような表情をしているのだろうか。確かめたいが、怖過ぎて顔を上げられない。どうしよう、空気が重い。下っ端海賊二人に連れ去られるのは勘弁だったが、今のアロンと二人きりにされるのも結構困る。

 どうしようか困り果てている私の頭上から、アロンの小さな溜息が聞こえてきた。

「あまり、感心しませんね。」

「・・・ゴメンなさい。」

 彼の指摘に、私はビクっと身を縮こませる。うー、怖いよぉ。

「此処は海賊船ですよ?あのような輩は大勢います。」

「はい、セインとイストにも同じような事を言われました。」

 彼の口調が幾分穏やかだったので、私は恐る恐る顔を上げる。私が、激しく落ち込んでいたからだろうか。アロンは、少し困ったような顔をしていた。

「まぁ、いいでしょう。リン、こちらへいらっしゃい。」

 そう言って、アロンは私に背を向けて歩き始めた。こんな所に一人取り残されて、再び先程のような目に合うのは凄く困る。私は彼を見失わないよう、小走りで後をついて行った。

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