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第二十四話

 突然起きた慌しい出来事に酷く疲れ、グッタリと肩を落としていた時だった。急な浮遊感が、私を襲ったのだ。

「きゃ!」

 急に視界が高くなり驚いた私は、慌てて目の前のものにしがみ付く。それは眩しい銀色だった。

「セイン。」

「何やら少し騒がしかったようだな。」

 急な浮遊感の正体はセインで、彼が私を抱き上げたらしかった。セインの顔にしがみ付いたようで、私は慌てて身体を離す。

 海から上がって来たばかりなのだろう。セインの髪の毛からは海水が滴り落ち、身体は濡れていた。

「いきなりビックリするじゃない!」

「それはすまなかったな。」

 そう言ったセインだったが、その顔は少しも悪いと思っているようには見えなかった。むしろ、少し楽しそうな顔をしている。そんな失礼極まりないセインに対して、一言物申してやろうとした時だった。私は、重大な事実に気づく。なんと彼は、上半身に何も身に付けていなかったのだ。先程のロディと同じく、ズボンしか穿いていない。まぁ、それはそうだろう。海に入るのに服を身に付けたままだなんて、動きにくい事この上ない。下半身は隠すとして、上の服を脱いで入るのは当たり前の事だろう。しかし、それとこれとは話が別だ。長くなってしまったが、つまり何が言いたいのかというと、私は上半身裸のセインに抱き上げられている事になる。引き締まった身体、それに彼の体温を直接感じて、私の顔は急激に熱くなる。

「ちょ、お、降ろしてよ!」

「何故。」

「何故って、何故でも!」

 セインを直視出来なくなり、あたふたと慌てだす私を見ながら彼はニヤニヤと笑っていた。こいつなんで私が焦っているのか、解ってやっているな。

 一人慌てているのが悔しくて、私は思わずそっぽを向く。そっぽを向いた先にはイストがいて、彼はこちらを見ながら苦笑していた。いや、苦笑してないで助けてよ、イスト。

「・・・それよりも、セイン。あんなにも深い所まで潜って、大丈夫だったの?」

 なんとかこの空気を変えたくて、私は先程気になった事を聞いてみることにした。

「あぁ、何。問題はないさ。」

 セインは微かに微笑をたたえる。たいした事ないという感じで話すのを見て、彼にとっては本当にたいした事ではないのだと感じ、私はそれ以上何も聞く事が出来なくなってしまった。こういうのを見てしまうと、此処が本当に異世界なのだと実感する。魔術って、凄いな。

「あぁ、そうだ。忘れていた。これを・・・」

 そう言ってセインは、私に右手を差し出してきた。虫とか、怪しい物じゃないだろうな。不信に思いながらも、私は恐る恐る両手を差し出してみる。

「わぁ・・・」

 私の両手に、セインが置いた物。それは海の蒼をそのまま閉じ込めたような、綺麗な楕円形をした蒼い石だった。

「綺麗!これ、どうしたの?」

「海底で拾ったのさ。それは、海でしか採れないクォーツ。本来ならば海底にある岩山の中から採掘しなければ採れないのだが、何かの拍子で転がり出したのか。長い間波に揺られて、丸みを帯びたのだろうな。海で取れるという事だけあって、水の魔術との相性が良い。」

 へぇ、これもクォーツなのか。お風呂場で浮かんでいたクォーツも綺麗だったが、私にはこっちのクォーツの方が綺麗に感じられた。元の世界でも誕生石などの綺麗なものを見ているのが好きだった私は、思わず海のクォーツに釘付けになる。綺麗なものを見ていると、心が癒されるしね。ストーンのお店なんかだと、いつまでも居れる自信がある。

「ありがとう。」

 暫らくクォーツを眺めていたが、私はそれをセインに返した。最初は失礼極まりないセインにちょっぴり憤慨したものだが、こんなにも綺麗なものを見せてもらったのだ。先程の事は、無かった事にしてあげよう。

 ほくほく気分でニコニコとしていると、セインとイストが『意外』といった感じでこちらを見ていた。

「な、何?」

 突然の二人の視線にビクビクする私に、イストが軽く溜息を吐いた。この二人の反応は、一体何なのだろうか。訳が解らずうろたえていると、セインが可笑しそうに笑い出す。

「いらぬのか?」

「え、くれるの?」

 驚き、セインを見つめる。

「おまえな・・・男が女に物を渡した、しかも光り物だぞ?贈り物に決まっているだろう。」

 そう言って、イストは呆れたように私を見ていた。

「女に贈り物を尽き返されたのは、生まれて初めてだな。」

「ち、違っ、そういうつもりじゃないよ!」

 セインの皮肉に、私は必死で頭を振る。セインは海のクォーツを、私にあげるつもりで渡したのか。だって「あげる」だなんて一言も言われてないし、ただ綺麗な石を見せてくれただけなのかと・・・

 一人イジイジと心の中で言い訳をしていると、「普通は分かるだろう」とイストに突っ込みを入れられた。心の中を読まれた!イスト、恐るべし。

「で、受け取ってはくれないのか?」

 そう言って真直で見つめてくるセインに、再び顔が赤くなる。

「う、ありがとう・・・嬉しい。」

 再び渡された石を、私は大事に握り締めた。心臓がドキドキと早く鼓動を打っている。恥ずかし過ぎて、セインの顔を直視出来ない。そんな私を、セインは可笑しそうに見つめていた。

「全く愉快だな。退屈はせぬものだ。」

 そうですか、それは良かったですね。そんなセインに、私は赤くなるだけで何も反応出来なかった。あ、でも、ちょっと待ってください。やっぱり一言だけ、セインに物申したいです。


 一体いつになったら、私を降ろしてくれるのでしょうか。

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