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第二十二話

 海面にプカプカと浮かぶ海賊達を眺めながら、私とイストは甲板の手摺りに寄り掛かりマッタリとした時間を過ごしていた。陽射しがそんなに強くない為、あれだけ寝たにも関わらず、気を抜けば再び眠ってしまいそうな気候だった。

「皆、気持ち良さそうだね。」

「ああ。」

 元々、人間観察が好きな私だ。泳いでいる海賊達を見るのは楽しかった。物凄い勢いで泳いでいる者も居るし、中には結構深い所まで潜っている者も居る。息は大丈夫なんだろうかと、思わず心配してしまう程だった。

「そういえば、イストは泳がないの?」

「俺は、いいのさ。」

 そう言ってイストは軽く笑ったが、その笑顔にほんの少しだけ蔭りが見えた気がしたのだ。何か聞いてはいけない事を聞いてしまったのかもしれない。どうしよう。一人悶々とそんな事を考えていた私に、イストが苦笑を漏らした。

「嬢ちゃんは察しが良いというか、何というか。いや何、嬢ちゃんが気にする事じゃない。俺はこれだからな。」

 そう言ってイストは、左足のズボンの裾を捲り上げた。私は思わず息を飲む。イストの左足は、膝から下が義足だったのだ。

「昔、少しヘマやらかしてな。腐る前に、切り落とさなきゃならなかったのさ。泳げない事はないが、不恰好になっちまう。そんな格好悪い姿、嬢ちゃんには見せられないだろう?」

 何でもない事のように軽く振舞うイストだが、足を切り落としただなんて相当辛い過去だろう。私はイストに、すごく嫌な事を言わせてしまったのかもしれない。

「・・・ゴメンなさい。」

 落ち込み項垂れる私の頭を、イストが軽くポンポンと叩いてきた。

「だから、嬢ちゃんが気にする事じゃねぇんだよ。確かに昔は色々と嘆く事もあったが、今じゃ本当に何とも思っちゃいない。だから、そう落ち込むな。」

 イストの温かい手を頭に感じながら、私は少し悲しくなった。辛くない筈がない。何とも思っていない筈がない。きっと世界には、他人よりも自分が大事という人が圧倒的に多い筈だ。私も、その一人かもしれない。もし自分が足を切り落として義足だったならば、きっと何年経とうとも辛い気持ちは捨てられないだろう。更に他人にそれを指摘されたら凄く嫌な気持ちになるし、その人を許せなくなるかもしれない。それなのにイストは、自分よりも私を心配してくれた。嫌な気持ちになった筈なのに、私を許してくれた。この人は、凄く優しい人だと思った。

 それから暫らく二人で海を眺めていたのだが、海底近くで何かがキラッと光ったのだ。

「ん?」

 光に気づいた私は、その正体を確かめるべく船から身を乗り出した。それは太陽の光に反射し、キラキラと銀色に輝いている。

「え、えぇ!?ちょ、イスト!」

 キラキラと銀色に輝く光の正体に気づいた私は、隣に居たイストの袖を思い切り引っ張る。

「一体どうしたんだ、嬢ちゃん。」

 袖を引っ張って離さない私を見て、イストが首を傾げた。

「あれって、セインじゃない!?」

 海底でキラキラと銀色に輝く光の正体。それは間違いなくセインだった。セインの銀髪が、太陽の光に反射して、キラキラと輝いていたのだ。

「ん?ああ、そうだな。」

「えぇ!?」

 当たり前のように肯定するイストに、私は多いに驚愕した。海底まで百メートルはある筈だ。私の勘違いではない。断言出来る。それをセインは、酸素ボンベもなしで潜っているのだ。

「大丈夫なの!?息は?水圧は?」

「船長だから大丈夫なのさ。」

 船長だから大丈夫って、どんな理屈だ。見た目や雰囲気からして普通ではないとは思っていたが、本当に普通じゃなかったとは。とんだ超人だ。

 もしかすると、なにか魔術でも使っているのかもしれない。一人でそう簡潔していると、視界の端に新たに不吉なものが横切った。

「イ、イスト!?」

「今度は、何だ?」

 再び激しく袖を引っ張る私に、イストが少し厭きれたような声を出した。

「あれって鮫じゃない?」

 私が視界の端に捉えたものとは、私の世界では考えられない程の大きな大きな鮫だった。

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