第二十話
「あれ?」
どうやら、私は眠っていたらしい。目を覚まし最初に視界に入ったのが、木の板を張り巡らせた古びた天井だった。ゆっくりと体を起こし、辺りを見渡す。微かに見覚えのあるその部屋は、昨日案内されたセインの部屋だった。部屋に付いている窓からは、既に暖かな日差しが差し込んでいる。
どうやら私は、宴の最中に眠ってしまったらしい。誰かが、この部屋に運んでくれたのだろうか。セインに寄り掛かって眠ってしまったので、セインが運んでくれた可能性が高いが。そんな事をぼんやりと考えていた私を、急な頭痛が襲った。
「痛っ・・・」
思わず、体を丸めて蹲る。頭が痛い。どうして、こんなに痛いのだろうか。
(そうだ。)
こうなってしまった原因を思い出して、私は思い切り眉を寄せた。これは、完全なる二日酔いだ。昨夜ロディに、アルコール入りの果物をいっぱい食べさせられた所為だ。
(くそぅ、ロディめ。どうしてくれようか。)
そんな物騒な事を考えながら、私は再びベットに突っ伏した。
(あれ?)
再びベットに横になった私は、ある重要な事に気付く。この部屋には、ベットが一つしかない。それでは、昨夜セインは何処で眠ったのだろうか。もしかして、私がセインの寝床を占領してしまったのだろうか。もしそうであれば、申し訳ない事をしてしまった。
(後で、セインに謝ろう。)
そう思いながら何となくベットに横になっていると、布団から何処かで嗅いだ事のある香りが漂ってきた。凄く、落ち着く香り。何の香りだったかとぼんやり考えていた私は、ハッとする。その香りの正体に気づき、そして勢い良くベットから転がり落ちた。
「痛っ!いったぁ・・・」
勢い良く尻餅をついてお尻が痛いのと、二日酔いの頭痛のダブルでダメージを受けた。しかしそんな痛みよりも、気づいてしまった事実の方が私にとっては衝撃的だったのだ。
(・・・セインの匂いだ。)
抱き上げられたり寄り掛からせてもらったりしたので、セインの匂いを覚えてしまっていたのだ。
そりゃあ此処はセインの部屋だし、彼は普段このベットを使用している訳だから、彼の匂いがついているのは当たり前の事だろう。そう、当たり前で何も問題ない筈。でも・・・
(なんだか、セインに包まれてるみたいだった。)
ふと思わずそんな事を考えてしまった私は、顔がボンッと茹蛸のように赤くなる。一体、私は何を考えているのだろうか。人の匂いを嗅いで一人で勝手に妄想するなど、変態以外の何者でもないではないか。
ベットの下で一人身悶え自己嫌悪に陥っていると、突然部屋の扉が開いた。
「おっはよー、リン!よく眠れたか・・・」
そう言って、テンション高く部屋に入って来たのはロディであった。そしてベットの下に落ち一人身悶えてる私を見て、まるで奇妙な物を見るかのような目付きで見つめてくる。
「・・・何してんの?」
うるさい!放っておい下さい。
あれから私はロディに連れられて、甲板へと向かっていた。何とか自力で自己嫌悪から立ち直った私は、隣を歩いているロディの方に目を向ける。ロディの顔を見ていると昨夜の出来事が沸々と思い出され、思わず彼をじとーっと睨んでしまった。そんな私の視線に気づいたのか、ロディもこちらに目を向ける。すると彼はこちらを指差し、いきなり顔が恐いと言って笑い出したのだ。そんな彼に、再び殺意が芽生えたのは言うまでもない。
「ところで、どうして甲板に向かってるの?甲板で何かやってるの?」
米神をピクピクさせながら、私はロディへの殺意を必死に引っ込め質問する。そんな私の葛藤を知る由なく、ロディは満面の笑みで話し出した。
「あぁ、今絶好のポイントに着いたからね。船を停泊させて、皆素潜りしてるのさ。楽しいから、リンもおいでよ。」
素潜り?つまり、遊んでいるという訳か。
それにしても、本当に呑気な海賊達だ。世界が崩壊の危機に面しているとは、考えられないくらいだ。この世界に来てからというもの、私が持っている海賊達のイメージがガラリと変わってしまった。
「早く、行こうよ!」
そう言って手を引っ張ってくるロディを見て、私は小さく笑みが零れた。
ここまで読んで下さった皆様、本当にありがとうございます。
投稿、遅くなってしまい申し訳ありません。