表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/33

第二話

 第二話は物語の構想上、残酷な描写が入ります。苦手な方は読むのをお控え下さいね。

 声が聞こえなくなった。先程から響いていた男性の叫び声が、パッタリと聞こえなくなったのだ。奴等にやられてしまったのだろうか。最悪の結末を想像しながら、私はなるべく足音を立てないよう、慎重に足を進めていった。その時であった。前方からガサガサと、何かが草を掻き分け、こちらへやって来る音がしてきたのだ。突然の出来事に驚き、私は周囲に身を隠せる場所がないか、あたふたするも、そんな場所は何所にも見当たらなかった。やがてその音は大きくなり、遂に私の目の前に大きな人影が現れた。

(もう、駄目だ!)

 ギュっと目を瞑り身構えるも、相手は何の反応も示さない。恐る恐る目を開けると、其処には血まみれの男性がいて、こちらを見てその動きを止めていた。その目は大きく見開かれ、とても驚いているようだ。血まみれという別の意味で悲鳴を上げそうになったが、その男性が明らかに先程の連中とは違うという事が分かった。雰囲気が全然違う。この人は正常だ。奴等より、この人の方が血まみれで怪しい筈だが、私には何故だか理解できた。

「あ、あの・・・」

「・・・では、ないのか?」

「え?」

 男性が何か言ったが、私は聞き取る事が出来なかった。しかし、そんな事はどうでも良かった。ようやく話の出来そうな人に出会えて、嬉しくて仕方がなかったからだ。その人も私と同じ気持ちなのか、始めは驚きと警戒の表情を見せていたものの、次第にその表情を緩めていった。外国人張りの彫りの深い顔をしている癖に、日本語を話せるのかという疑問は、一端隅に置いておこう。外国人顔なので定かではないが、年齢は40歳くらいだろう。痩せており、とても疲れた顔をしている。

 とにかく此処が何所なのか、先程の奴等は何なのか、色々と聞きたい事があった。そうして、もう一度男性に話し掛けようとしたその時、男性が居たすぐ横の木の陰から、何かが飛び出してきたのだ。

「うわぁ!」

 一瞬の出来事で頭が着いて行かず、少し経ってから、男性が飛び出してきた何かに押し倒された事が分かった。そして、その飛び出してきた何かとは、先程私に噛み付こうとした内の一人だったと気づく。咄嗟に私は男性を助けようとするも、その背後から残りの二人が現れる。二人が現れた事に驚き、私は立ち竦んでしまった。残りの二人も、倒れた男性の上に圧し掛かる。

「あぁ!助けてくれ!」

 男性はこちらに向けて懸命に手を伸ばすが、私は一歩も動けなかった。見てしまったのだ。狂気に狂った三人が男性に噛み付いている。いや違う、噛み付いているんじゃない。食べているのだ。男性の肉を食い千切り、それを飲み込んでいる。先程、三人は私に噛み付こうとしたんじゃない。


 私を食べようとしていたんだ!


 気づいてしまった事実に、思考が働かない。手足の震えが止まらない。何も見えない。何故、何故?

「あぁあああぁ!」

 男性の絶叫が響き渡り、その声に体が震える。男性は既に動かなくなっていた。目の前で行われている光景に呆然と立ち尽くしていると、三人の内の一人がこちらに顔を上げた。ゆっくりと立ち上がり、こちらに近づいてくる。まるで新鮮な獲物を見つけたかのような目をして、こちらに近づいてくる。


 どうして、こうなった。


 今日は、普通に学校に行って、普通に授業を受けて、普通に友達と会話して、普通に・・・。とにかく、いつもと変わらない普通の生活を送っていた筈だ。それが、どうしてこうなった。常識では考えられないような出来事が、今私の目の前で繰り広げられている。私が何をしたというのだ。

「あ、あぁ・・・」

 口の周りを血だらけにし狂気に狂った男が、とうとう私の目の前に迫っていた。私は恐怖で、足が一歩も動かない。

(もう、駄目だ!)

 心の中で叫んだ時だった。私の目の前を銀色の閃光が通り過ぎ、狂気に狂った男を突き飛ばしたのだ。私は急いで、銀色の方へと目をやった。

「おお・か・・み?」

 銀色のキラキラと光る綺麗な毛並みに蒼い瞳。其処には、一匹の大きな狼がいた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ