第十七話
少しR15的な表現が入りますので、苦手な方は注意して下さい。
その日の夜、セインの海賊船では、甲板にて宴が開かれる事となった。私もその宴に参加するように言われ、緊張の面持ちで甲板へと上がって行ったのだが、甲板に出た瞬間に別の事に気を取られてしまいそれどころではなくなった。夜空が凄く綺麗なのだ。満天の星空。隙間無くと言って良いほど、夜空を埋め尽くす星達。大きな月のような星もあるし、月より小さな、しかし他の星達よりも大きな星も三つ程ある。夜の筈なのに、星のお陰で辺りは明るい。
「夜空ばかり見ているのだな。」
星空に目を奪われていた私に、隣に座っていたセインがそう言って話し掛けてきた。
「だって、すっごく綺麗なんだもん!」
「普通だと思うが?」
セインは普通だと言うが、日本では考えられない事だ。本当に美しい。この世界が崩壊の危機に面しているだなんて、信じられないくらいだ。
「周りにこんなにも男前が揃っているというのに、全く見向きもしないなんてねぇ、船長。」
そう言って私達の話に入ってきたのは、ほんの少し長めの金髪に、黒い瞳をした男だった。アクセサリーを沢山付けており、少しチャラチャラとした印象である。
誰だろう。セインの周りには、側近というか、幹部クラスっぽい人達が集まっているようだ。何故分かるのかというと、他の人達とオーラが全然違うのだ。身なりもしっかりとしているし、下っ端っぽい人達は不潔とまではいかないが少々だらしがないように感じられる。
あまりにもまじまじと見過ぎた所為であろうか。私の視線に気づいた金髪男が、へラっと笑いながらこちらに近づいて来た。
「初めまして、異界の乙女。俺はロディ、よろしくね。」
「よ、よろしく。」
そう言って馴れ馴れしく肩を抱いてくるロディに、私は思わず逃げ腰になる。この人、絶対に女慣れしている。そんな逃げ腰の私を見て、ロディがニヤニヤと笑い出した。
「お、いいねぇ、その初々しい反応。」
そう言いながら、ロディは面白がるかのように更に体を密着させてきた。この男、さては私の反応を見て楽しんでいるな?彼の体を必死に押し返していると、近くからまた別の声が掛かった。
「ロディ、あまりからかってやるな。」
ロディの過剰なスキンシップを止めてくれたのは、無造作に後ろに流したオールバックの茶髪に、緑の瞳をした男だった。ロディに比べ大分年を取っている感じで、まさにダンディなオジサマといった感じである。この人も幹部クラスのようだ。
「俺はイストだ。よろしくな、嬢ちゃん。」
そう言うとイストは、大人の落ち着いた笑みを見せてくれた。その笑みに、思わずキュンとしてしまう。格好良い!渋い、渋過ぎる。今の笑み、グッときた。
「何?リンは俺よりも、このおっさんの方が好みな訳?」
そんな私の反応が面白くないのか、ロディは少し拗ねたような顔していた。彼の過剰なスキンシップは困りものだが、その顔は少し可愛いかもしれない。
こんな感じで宴は始まった。私の想像とは異なり、海賊船は思いのほか陽気に賑やかだった。
「ところでリンは、この世界の事をどこまで知ってるの?」
未だに拗ねた顔をしていたロディが、焼き鳥のような物を食べながら話し出した。しつこい男はモテないぞ!
「どこまでって・・・ホーメロの魔術で世界が崩壊の危機に面している事は、セインから聞いたけど。」
あとは、魔術が日常的に使用されている事くらいであろうか。
「インフェクターには会ったんだろう?何のインフェクターに会ったんだい?」
「何の・・・?」
はてさて、何のとは一体どういう意味なのであろうか。
「ありゃ、その様子じゃ知らないみたいだね。インフェクターには、三つのパターンがあるのさ。今までの推察からすると、奴らはホーメロの魔術により思考が停止してしまったと考えられている。ただ、自らの欲求に忠実な人間。」
思考が停止、欲求に忠実、それに三つのパターン?私が森の中で出会った三人のインフェクター達は、皆同じ感じで違いなんか分からなかったが。ロディにそれを伝えると、それは食欲者だねと答えられた。食欲者?
「リンは、人間の欲求って何だと思う?」
欲求・・・人間の三大欲求の事だろうか。
「食欲と睡眠欲と・・・性欲?」
「そのとおり。人間には持って生まれた、この三つの欲求がある。腹が減れば何かを食うし、眠いなら眠る。性的欲求が起これば、誰かで・・・まぁ相手が居なければ自ら処理する。とまぁこんな感じで、奴等はこの欲求のままに素直に行動し生きているのさ。」
ロディの説明を受け、私は少しゾッとした。思考が停止し、理性もなく自らの欲求を満たす為だけに動き回る人間達。そんな人間達に集団で襲い掛かられれば、ひとたまりもないであろう。
「そして、とうとうこんな唄も出来る始末・・・」
「食欲者と出会えば、すぐ逃げろ。肉を喰い千切られ、貪り喰われるぞ。睡眠欲者と出会えば、幸運者。足音立てずに、その場を離れろ。性欲者と出会えば、天国行き。快楽と共に、どの道御陀仏さ。」
横から割り込んできた声の方に目をやると、其処には豪快にお酒を飲んでいるイストがいた。
「この世界で、この唄を知らない者はいない。誰が作ったのかは知らないが、皮肉なものだ。この世界では、この唄が絶対のルール。もし逆うのならば、待っているのは闇の世界のみ。奴等の仲間入りだ。」
そう言ったイストは、本当に皮肉そうに笑っていた。
新キャラ、二人登場です。