第十四話
頭の中で最悪の結末を想像をしながらアタフタとしていると、セインが可笑しそうに笑った。
「何を考えているのかが、手に取るように分かるな。まぁ、安心しろ。売り飛ばしたり殺したりはしない。」
そんなセインの言葉に、私はホッと息を吐く。よかった、酷い目に遭う事はなさそうだ。
それにしてもこちらの世界に来てから、本当に表情が豊かになった気がする。良い事だとは思うが、思考がバレバレなのは一体どうしたものだろうか。
「まぁ本来ならば、この世界の救世主であろうと魔力も持たぬ、しかも何の取り柄もなさそうな小娘など捨て置くところだが・・・」
うっ、何やら途轍もなく恐ろしい言葉が聞こえてきた気がするのだが、気の所為であろうか。
「もし陸の奴等の手にでも渡ったら、それはそれで面白くない。」
そう言ったセインは、本当に可笑しそうに笑っていた。
「今頃陸の奴等は、血眼になっておまえを探している筈だ。奴等は、海での生活に慣れていない。一刻も早く、陸に帰りたい筈だ。しかし、陸には帰れない。何故ならインフェクター達が、ウヨウヨと待ち構えているからだ。そうなると、奴等に残されたのは最後の希望しかない。黴の生えた言い伝えであろうと、世界を救ってくれるというおまえの存在を信じるしかないだろう?」
そう言うとセインは椅子から立ち上がり、ベット上に座っている私の方に身を乗り出してきた。急な事に驚き思わず私は後ずさろうとするも、セインはそれよりも早くこちらに手を伸ばしてくる。
「うわっ!」
急な浮遊感と共に、私の体は高く持ち上げられた。気が付くと、お腹と太腿に温かい感触が。なんと私は、セインの右肩に荷物のように担がれていたのだ。
「ちょ、降ろしてよ!」
私はセインの背中を叩いて暴れるも、セインは特に気にした様子もなくドアの方へと歩いて行った。私が暴れている間にも、セインは部屋を出て薄暗い通路を歩いて行く。一体、何処に連れて行かれるのだろうか。奴隷部屋か何かだろうか。この前見た映画の内容を思い出し、私は青褪めた。きっと、死ぬまで扱き使われるんだ。それともやはり、海賊達に酷い目に遭わされるとか。
どうしようもない現実に、私は涙が止まらなかった。
一人絶望していると、急に視界が開けた。どうやら、船の甲板に上がったらしい。雲一つ無い青い空に差し込む太陽の光が眩しくて、私は目を細める。甲板から見えた青い海は何処までも続いていて、太陽の光に反射しキラキラと輝いていた。
(綺麗。)
美しい景色に思わず見惚れていた私だったが、辺りに響き渡ったセインの声により我に返った。
「聞け、皆の者!我が船に、異界より黒髪黒目の使者がやって来た。陸の奴等は、血眼になってこの者を探している筈だ。」
そう言うとセインは、私の太腿を軽く撫でてきた。ちょ、何すんの!セクハラ反対!
一人焦る私を余所に、セインは続ける。
「陸の奴等に渡すのは、面白くないだろう。奴等には渡すまい。ドーナ王国の連中に、一泡噴かせてやろうぞ!」
セインがそう言うと、辺りに地響きのような歓声が沸き上がった。セインに後ろ向きに担がれている私は、前方の様子を伺う事が出来ない。一体、何が起きているのだ。
首だけを後ろに向け前を見ようとしたその時、急にセインによって彼の右腕に座らされるかのように抱え直されたのだ。
「のわっ!」
思わず、変な声が出る。せめて一声掛けてから、抱え直してほしい。
そう抗議しようしてセインに顔を向けた瞬間、私は固まった。想像以上に、セインの顔が近くにあったからだ。こんな美形に間近で見つめられて、赤面しない女はいるのだろうか。いや、いない。
赤面した事が悔しくて、私はセインから顔を背けるようにして辺りを見渡した。すると其処には、如何にも海賊って顔をした人達がゴロゴロと居て、その全員が私の方を食い入るように見ている。
(恐っ!)
厳つい人達の視線に恐れをなして、私はセインに視線を戻す。そして思わず、縋るようにして彼のシャツをギュッと握り締めてしまった。そんな私をセインが可笑しそうに見ている。
「運が良かったな。この船に置いてやろう。別に、酷い目には遭わさぬさ。」
そう言うとセインは、私の耳元に唇を寄せてきた。突然の事に驚き思わず仰け反ろうとするも、それはセインの手によって引き戻される。
私の耳にセインの唇が触れ、私はギュッと目を瞑った。
「可愛がってやろう、リン。」
そう耳元で囁かれ、私の心臓は激しく鼓動し始めた。私の耳元から唇を離したセインは、妖艶に笑い私を見てくる。私は視線に囚われ、彼から目を逸らす事が出来なかった。
ようやく、異世界での恋愛要素が入ってきた気がします。