第十二話
第十二話は物語の構想上、残酷な描写が入ります。苦手な方は読むのをお控え下さいね。
世界で最も広大な海、ラティス海。その中心に位置する世界最大の規模を誇るエイス大陸には、ドーナ王国と呼ばれる大きな国があった。ドーナ王国は栄華繁栄を極め、世界各地に存在する国々を一国で纏め上げていた。
ドーナ王国こそ、世界の中心。それがこの世界の常識だった。
時は、魔術時代。
高度な魔術が次々と編み出され、人々の生活の中に取り込まれていった。魔術の質が上がる事によって、国が豊かになる時代だったのだ。
ドーナ王国が、栄華繁栄を極める事が出来たのには理由がある。ドーナ王国では英才教育による有能な魔術師の育成、高度な魔術研究、他国からの有能な魔術師の引き抜きにより、その力を強めていった。更にドーナ王国は、自国に牙を剥く国々をその魔術の力によって次々と薙ぎ倒していった。そうしてドーナ王国は、世界の支配者となったのだ。
ドーナ王国には、国王に仕え城に住まう王律魔術師がいた。その王律魔術師の最高責任者、ホーメロ。彼は類い稀なる才能の持ち主で、彼に扱えぬ魔術は存在しない程だった。他国との戦争においては、ホーメロ率いる王律魔術団が圧倒的な力で他国を捻じ伏せた。彼はドーナ王国の名を上げるのと同時に、また自身の名も瞬く間に世界に知らしめたのだ。
そんなホーメロが、ある一時から自分の研究室に篭もりきりになった。彼はこうして度々研究室に篭もる事があったので、城の皆も特には気にしなかった。またホーメロによって新たな魔術が開発され、我々の国は豊かになる。そんな噂さえ流れ始めた。
ホーメロが研究室に篭もってから、早半年。流石に人々は心配し始め、一人の侍女に様子を見に行かせた。ホーメロは、研究室を覗かれる事を酷く嫌う。以前彼の研究室を覗いた重役が、彼の魔術によって跡形もなく消え去ったのだ。これは言わば、ただの生贄。そして様子を見に行った侍女は、帰って来なかった。
侍女が帰って来なくなってから、更に一ヶ月。城の誰もがもう待つしかないと考え始めたその頃、突如として侍女は帰って来た。話しかけても返事は帰って来ず、目は虚ろに虚空を見ている。誰が見ても、侍女の精神は崩壊していた。余程、恐ろしい目にあったのだろう。そう考えた仲間の侍女が、彼女を休める場所に連れて行こうとしたその時だった。虚ろな目をしていた侍女が、いきなり仲間の侍女に噛み付いたのだ。誰もが目を瞠り侍女を止めようとするも、侍女はその止めようとした者にまで噛み付き始めた。辺り一帯、騒然となる。そしてその場に居た皆が、ある事に気付いたのだ。
侍女が噛み付いているだけではなく、その噛み切った肉を食べている事に。
結局、駆けつけた王律騎士団により侍女は斬殺。負傷した者は、医務室へと運ばれた。ホーメロの魔術により侍女は正気を失ったのだと判断され、その問題は片付けられた。
そして、その日の夜。運命の夜。
皆寝静まり、ひっそりとした静かな城に何人もの悲鳴が響き渡った。城に仕えている人間が次々と狂いだし、正気を保っている人間を次々と襲い出したのだ。襲いくる人間達の中には、昼間負傷した者や更には死んだ筈の侍女まで居た。
辺り一面、狂気。血は噴き出し、人々の悲鳴が後を絶たない。狂気に狂った人間は、正気を保っている人間を次々と食べ始めた。王律魔術師、王律騎士団も事態の沈静に当たろうとしたが、その凄まじい勢いになすすべもなく後退した。
被害は城内に止まらず瞬く間に王都に広がり、そしてドーナ王国全体、また他国にまで広がっていった。その間、ホーメロの姿を見た者は誰も居ない。
そして世界は、狂気に包まれた。
説明文ばかりで、読みにくいかもしれません(汗)