どうしてわたくしを優先しないの?そんな婚約者なんていりません!
どうしてなんでっ。なんであの人は、わたくしを優先しないの???
夜会でにこやかに、他の令嬢の手を取る男性は、フェリティシア・ラテル公爵令嬢の婚約者ブランド第二王子だ。
黒髪碧眼の美しい彼はいつも違う令嬢をエスコートし、ダンスを踊る。
フェリティシアのエスコートをして夜会に出席したためしがない。
「私程の、美しい男性と踊りたがる女性は多いはずだ。だから私は君と婚約をしたとしても他の女性を優先したい」
はぁ?どういうことよ。なんのための婚約者よ。
わたくしが貴方の婚約者よ。
婚約者は優先するっていうのが礼儀では無いの?
怒りが爆発する。
今日も放っておかれ、壁際に立って、ブランド第二王子を睨む。
ブランド第二王子に無視されて、彼は他の令嬢とダンスを踊っていた。
あの令嬢は伯爵令嬢。わたくしの派閥の令嬢だわ。あの家を潰して?いえ、あまりにも数が多すぎる。いちいち、ブランド第二王子とダンスを踊っただけという令嬢の家を潰す訳にはいかないわ。
どうしたらいいの?どうしたら。
王妃が取り巻きの夫人達と優雅に現れて、フェリティシアに言ったのだ。
「貴方の魅力が無いから、他の令嬢達と踊って。貴方がもう少し美しければ、きっとブランドも貴方に夢中になって浮気はしないでしょうねぇ」
フェリティシアの容姿は普通だ。可もなく不可もない。茶色の髪に青い瞳はよくある色で華やかと言う訳ではない。
悔しい悔しい悔しい。
もっとわたくしが美しければ本当にブランド様は浮気をしないの?
わたくしを優先してくれるの?
本当に???
「王妃様。それは違うのではないですか?」
隣国の第二皇子殿下が声をかけてきた。
確か留学しているレデルク第二皇子。色が黒くて髪が銀色で、遠い国の血が混じっているって言っていたわ。
彼は優しく微笑んで、
「婚約は家の契約です。それを優先しないで、婚約者と良好な関係を築こうともしない。不誠実以外の何物でもありませんね。婚約は無しにした方が良いのではないですか?」
王妃は扇で口元を隠して、
「これだから、野蛮な血が混じった第二皇子殿下には困りますわね。異国の色でしょう?その肌の色は。我が王国の事に口出ししないで頂戴」
「確かに我が母は遠い国の出身です。私の肌の色、お気に召しませんか?人は見かけだけではなく中身が大切だと思っておりますが。ブランド第二王子殿下は中身は伴っていますか?」
「なんと無礼な。ブランド。いらっしゃい」
令嬢の手を取りながら、ブランド第二王子はこちらにやって来た。
王妃が、
「貴方の頭の良い所をレデルク第二皇子殿下に見せてやりなさい」
「母上、無理です。レデルクは、王立学園で学年で3位。私は下から数えた方が早いです」
「なんですって???」
「私は婿入りする身ですから、どうせ執務は妻になるフェリティシアがやってくれて私はお飾りでしょう。ほら、顔だけは美しい私ですから。お飾りなので勉学は適当にやっています」
フェリティシアは呆れた。
「それは困ります。わたくし一人に領地経営を押し付けるつもりですか?」
「私は遊んで暮らしたいのだ。この美しい血があれば、美しい子が生まれる。それでよいだろう」
酷いわ。あまりにも酷い。
わたくしだけに領地経営を押し付けるだなんて。
結婚してもこの人は変わらないわ。
他の令嬢達と遊んで。わたくしなんて優先しないで。
「婚約破棄を致します。王家相手に不敬だと言うのなら、あまりにも今のブランド第二王子殿下の発言は酷すぎますわ。大勢の人が聞いていたはず。結婚しても何もしない夫なんていりません。わたくしが我慢できません。ですから婚約破棄を致します」
レデルク第二皇子が、
「私が立ち会い人になる。私の事をこの王国は侮辱した。私は父上母上に可愛がられているんだ。私の母は正妃だから。今日、私を侮辱した事は父上母上に報告させて頂く。そして今回の婚約破棄の見届け人になる。それでよろしいかな?ラテル公爵令嬢」
「有難うございます。レデルク第二皇子殿下」
勝手に婚約破棄を叫んでしまった。
父に知られたら怒られる。
でも、帝国のレデルク第二皇子殿下が立会人になってくれたのだ。
ブランド第二王子が慌てたように、
「婚約破棄は困る。私はラテル公爵家で楽したいんだ。遊んで暮らしたいんだ」
王妃は不機嫌に眉を寄せて、
「解りましたわ。帝国の第二皇子だからって、甘く見ておりました。婚約破棄、了承致します。ブランド。この母が良い婿入り先を探してあげますから」
「母上、頼みましたよ」
ちらりとブランド第二王子を見る。
この人は、楽出来ればいいと思っていて、わたくしの事なんて何とも思っていないんだわ。
女としてとても悲しい。
今までないがしろにされてきたのだ。
それだけでも悲しかったのに。
執務を自分に押し付けて、遊び暮らすつもりで、最低の男っ。
思わず叫んでしまった。
「ブランド様なんて、変…辺境騎士団へ行けばいいんだわっ」
叫んでいけない言葉だった。
「なんだ黒髪碧眼か、金髪碧眼だったら」
「贅沢を言うな。美しい男だ」
「我らが貰って行くぞ」
「三日三晩の教育が待っているからな」
見知らぬ男達がさりげなくやってきて、さりげなくブランド第二王子を連れて行ってしまった。
屑の美男を教育する変…辺境騎士団。
彼らがさらっていったのだ。
王妃が半狂乱で、
「ちょっと、待ちなさいっ。ブランドをっーー貴方達返しなさいっ。近衛騎士。あのものたちからブランドをっ」
あっと言う間に馬車に押し込められて。
追いかけて行った近衛騎士達は触手でぺしぺしと追い返されて、
ブランドは攫われて行った。
王妃の嘆き悲しみようは見ていられなかった。
「ああ、わたくしのブランドがっ。ブランドがっーーーーー」
ブランド第二王子と婚約破棄が成立した後、
レデルク第二皇子から婿入りさせてくれという打診があった。
あの会場で自分を庇ってくれたレデルク第二皇子殿下。
礼が言いたいと、レデルク第二皇子が留学している王立学園の男子が学ぶ校舎の前で待ち伏せした。
レデルク第二皇子が出て来て、フェリティシアを見つけて驚いた。
「お話をしたくてお待ちしておりましたの」
「これは嬉しい。馬車の中でお話をしましょうか」
レデルク第二皇子と馬車に乗る。
馬車の中で二人で話をした。
「王妃様から庇って頂いて有難うございます。人は見かけではありませんよね?」
「君は私の肌の色は嫌いか?」
「いえ、とても美しい色だと思っておりますわ」
「君の家に婚約を打診しているんだけれども」
「父と相談中です。良い返事が出来るでしょう」
「フェリティシア嬢。私なら、君を一人で壁際に立たせてはおかない。他の令嬢なんかと踊らない。私は誠実な人間でありたいんだ」
嬉しかった。不誠実はあのブランド第二王子には悲しい思いをしたから。
辛かった。いつも他の令嬢達とダンスを踊る彼の事が、辛くて、憎くて、許せなくて。
だから、その誠実な言葉が嬉しかった。
「貴方が誠実にわたくしと向き合って下さって嬉しいですわ」
「不誠実な男は男ではない。領地の事を教えて下さい。貴方の家に婿入りする為に私は頑張っていきたいと思っております」
レデルク第二皇子と婚約をした。
彼はいつも婚約者であるフェリティシアを優先してくれる。
フェリティシアはもう、壁際に立つ令嬢ではない。
愛するレデルク第二皇子と共に、今日も夜会でダンスを踊るフェリティシアは幸せを感じるのであった。




