2-2 日常
「緊急速報です、ただいま入った情報によりますと、突入した特殊部隊と、テロ組織が交戦中、警察庁からのコメントでは、鎮圧までにはまだ少し時間がかかるとのことです。繰り返します、突入した……」
場所はどこかの民家……
居間にあるテレビから、渋谷の惨劇、そしてテレビ局の攻防のニュースが流れている。
五・六十代の男性が、お盆に食事を乗せて、階段を上り、二階の一室へ向かう。
真っ暗な部屋で、パソコン画面の明かりだけがチカチカと光る。
そのパソコンの前には、30代と思われる男性が、ヘッドセットをしながら、FPSに没頭している。
「おい、そこ左だろ使えねぇな!」
「やられたならそのまま死んどけ、ゴミが!」
「死んだからって、いつも助けてもらえると思うなよ、ギャーハハ」
一日中窓とカーテンを閉めているのだろうか、喚起されていない部屋の、よどんだ臭いが充満している。
年老いた男性が、食事を部屋の扉の前に置く。
するとそれに気づいたニートの男が、ヘッドセットを外して食事をとりに来る。
「おっせぇな、全滅したらどうすんだよ、ったく……」
そう言いつつ、食事をパソコンの横のテーブルに持っていく。
振り向くと、まだ年老いた男性がそこに立っている……
ニートの男は面倒くさそうに立ち上がり、男性の前にいったかと思うと……
ドガァッ!
年老いた男性は蹴とばされ、廊下の壁に打ち付けられる。
「何だテメー、なんか文句でもあんのか? ああ?」
廊下ではいつくばっている男性を見下し、舌打ちするニートの男。
そのままパソコンの方へ戻っていく。
ヒイイィィン……
廊下ではいつくばっている男性の額に、ヒューマンスレイヤーの紋章が光る……
立ち上がった年老いた男性は、その場で立ったまま。
ニートの男はまた舌打ちし、また男性の方へ……
「テメー、いい加減に……」
ドシュッ!
「えっ?」
ニートの腹部に、男性の手刀が深々と突き刺さっている。
ドサァッ……
床に倒れ、血を流すニートの男。
「あ、あああ、死ぬ、死んじまう……だれか、たすけ……」
パソコンのヘッドセットから声が漏れる。
「なんだよこいつ、死んでんじゃねーか」
「死んだからって、いつも助けてもらえると思ったら大間違いだぞ、ギャーハハ……」
かつて自分が仲間に放った言葉が、現実の自分の死を肯定するように、部屋に響く。
ニートの男は、涙で歪んでいる自分のパソコンに、血まみれになった手を伸ばす。
そこにいるはずもない、仲間たちに助けを求めるように……
年老いた男性は、無機質な顔でニートの男を見下ろす
「フゥ……」
……まるで、『飛んでいた害虫を、新聞紙で叩き落した』くらいの感じで、
小さな息を吐く。
そのまま、何事もなかったかのように、階段を下りていく
トントントントン……
「ぐふっ……ごほっ……あ……」
ニートの男の瞳から、光が消える。
僅かに震えていた体は、完全に停止し、まるで時が止まったかのように静かに……
暗い部屋は、先ほどと変わらず、パソコン画面の光だけがチカチカと光る。
喚起されていない部屋のよどんだ空気が、血の臭いと混ざり、さらに異様な臭いを醸し出す……
居間にあるテレビから、またニュースの声が流れる
「たった今、テレビ局に、警察の機動隊と、自衛隊も到着しました。
これから合同で、大規模な作戦が実行される模様です。繰り返します……」
テレビ画面には、警察の機動隊、自衛隊の隊員たちが、装甲車から続々と降りてきて、装備を確認している場面が映し出される。
ニートの男の視線の先にあるパソコンのヘッドセットからは、いつもの無慈悲な言葉が続く……
「死んだ奴は放っておこうぜ」
「おい、そっち行ったぞ、殺せ殺せ!」
「装備品を奪ったら、銃はオレに渡せよ」
「じゃあお前が死んだら、その銃はオレのものな、ギャーハハハ」




