1-3 威嚇
「お巡りさん、こっちです!」
さっきレセプターが見逃したガードマンが、数名の警察官を連れてスタジオに入ってきた。
「おい、お前たち、自分が何をしたのか、わかっているのか!」
最初から拳銃を構えて、白い男を威嚇する警察官。
白い男の前には、番組のスタッフと思われる人達が数名、床に倒れている。
「フム、近くにいた警察官を呼んできたか……意外に早かったな」
白い男は、さも当然のようにガードマンと警察官の方を向き、呟く。
スタジオには、大型ビジョンに映っていたレセプターの後ろに、二人の男女も立っていた。
一人はチャイナドレスを着た、若い女性。
もう一人はスキンヘッドで、褐色の肌のゴツイ大男……なぜか目を包帯で巻いている。
レセプターを最影していたテレビカメラが、警察官の方を向く。
どうやらカメラマンも、レセプターの一味らしい。
渋谷の大型ビジョンにも、拳銃を構えた警察官たちが映し出される。
レセプターはその場で立ち上がり、警察官の方を向き、二・三歩歩く。
「う、動くなっ!」
警察官は、拳銃をレセプターに向けて構える。
拳銃を持つ手が、ブルブルと震えているのが、大型スクリーン越しにもわかる。
レセプターはその場で止まり、ゆっくりと口を開く。
「確か日本の警察官が拳銃を撃つときは、『拳銃を撃つことを予告する』、『威嚇射撃を入れる』などの手順が必要だと聞いたが……いいのか?」
「事態がひっ迫している時は、その限りではない!」
拳銃を構えている警察官が、震える声で即座に答える。
レセプターの口元が、一瞬緩む。
「そうか、では撃つといい」
レセプターは、両手を広げて警察官たちを挑発する。
「わ、私達が、本当は撃てないとでも思っているのか!? ほ、本当に撃つぞ!」
警察官の、拳銃の引き金を持つ指にチカラが入る……
レセプターが、右腕を動かそうとする仕草をみせる、その時――
「うおおーー!」
ダンッダンッ!
テレビ局のスタジオに、乾いた銃声がこだまする……
拳銃の弾は、レセプターの後ろ髪をかすめる。
「惜しかったな、次だ」
余裕を見せるレセプター……その口元には、笑みも零れている。
「くっ……」
ダンッダンッダンッ!
三発の銃声……しかし、弾はことごとく外れる。
「残念、どうした、外したぞ」
「そんな、なぜ当たらない……?」
警察官は、まるで狐にでも化かされたような顔で、レセプターを見る。
「お前の目線や銃口の向き、腕や指の筋肉の動きなどで、『弾道』は容易に推測できる」
警察官の眉間に、しわがよる……
「そ、そんなことが……?」
レセプターは、何事もなかったかのように、右腕を下から上に振り上げる。
「フッ……、人身掌握術・ヒトキリ!」
ザシュッ! ザシュッ!
「がっ……」
「ぶへっ……」
一瞬だった……
レセプターが、言葉を発したと同時に、複数の『真空の刃』が飛び出す。
真空の刃は、その場にいた数名の警察官を、一瞬でバラバラに切断した。
空中に、腕や足、首が飛ぶ。
「ひっ、ひいいぃぃぃ……」
腰が砕け、その場に座り込んでしまったガードマンの足元に、警察官たちの大量の血が流れてくる。
上に振り上げた右腕を降ろし、バラバラになった警察官と、恐怖に怯えるガードマンを見つめるレセプター。
口元には笑みがこぼれる。
「この『人身掌握術』は、地球が我々に与えた、旧人類を『駆除』するための『技術』……
死にたくなければ、躊躇せず撃った方がいい。もう遅いがな」
レセプターは、そのまままた元いた椅子に戻る。
テレビカメラも、レセプターをそのまま追うように映す。
二人の男女も、その場でピクリとも動かず、立ったまま。
「このままこのテレビ局を、我々の『要塞』として使わせてもらう。
文句のあるやつはいつでも来るといい、相手してやろう」
レセプターは椅子に腰かけ、足を組み、不敵な笑みを零す。
「お前たち『旧人類』が好きな『拡散』も頼むぞ、世界中に発信してくれ」
レセプターは、カメラの前で見ているだろう『旧人類』に話しかける。
まるで、この後に起こるであろう惨劇を、すでに知っているかのように……
このまま旧人類は、新人類によって『駆除』されてしまうのだろうか……?
……
……
……
……
『否』!
◆場面は変わり、太平洋のどこか、日本の護衛艦『しきなみ』の甲板……
ザザザァ……
護衛艦のディーゼル音が、広い海原にこだまする。
ギイィィ
甲板の鉄の扉が開き、中から青い海上自衛隊の制服を着た青年が出てくる。
甲板の手すりに寄りかかり、遠く、日本の方角を見据える……
奥の方からもう一人、若い海上自衛官が駆け寄ってきて、青年の前で敬礼する。
「北上三等海尉、海上幕僚監部より入電です。
至急日本へ帰還、そのまま首相官邸へ『出頭命令』です」
「了解した」
「失礼します」
若い自衛官はそのまま艦内へ
北上三等海尉と呼ばれたその青年は、自分の右手を開き、見つめる。
その手の平には、『ヒューマンスレイヤーの紋章』が輝く……
ヒイイィィン……
「巨大な『波』が、迫ってきているのを感じる……
果たして俺は、その『波』に飲み込まれるのか? それとも飲み込むのか……」
ガランガラン……
遠くで時鍾の音が響く。
青年は右手を太陽に向け、握る。
世界はまだ知らない――、これから起こる本当の惨劇を。
世界はまだ知らない――、自分たちが積み上げた罪を、清算すべき時が来たことを……




