7-1
アパートが見えなくなったところで明良と果歩は逃げるのを止め、立ち止まった。
「追いかけてきてないよね?」
果歩が明良に聞いた。明良は後ろを振り返り、赤ん坊の母親の姿が見えないのを確認した。
「だいじょうぶです」
中年に差し掛かっている二人は、しばらく路上で息を切らせた。
「これからどうしましょう」
明良が言った。果歩はうん、と呟いただけで、やはり良い案がなさそうだった。
「児相に連絡します?」
「この子に何の関わりもない私たちが保護者を通じずに連絡したら、怪しまれて色々聞かれない? やっぱり、職業とか。状況から考えると、そのまま警察呼ばれるかも」
「そうかも知れないですね」
二人はまた黙り込んでしまった。周囲には建売住宅が並んでおり、その隙間を縫って相変わらず強い風が吹き込んできていた。
(疲れたな。なんだかひどく疲れた)
黙りながら明良は心内で呟いた。
「もういっぺん、商店街に戻ってあの坂を三人で転がってみる、ちゅうのはどうや?」
大人しくしていた赤ん坊が唐突に言い出した。
「さっきワシもあそこ転がってみたらあんたたちに会えたわけやし、またなんか道が開けるかも知れん」
明良は何言ってるんだこの人、そんなことしたって何もならないじゃないかと思い、すぐ否定しようとした。するとそこで果歩が、
「それいいかもね」
と答えた。
「こうしてうろうろしてるより、何か良いことがあるかも。なんていうか、ご利益がありそう」
「せやろ?」
明良は慌てた。
「いや、そんなことしたって……」
「じゃあ商店街に戻ろう。行こ、新城くん」
赤ん坊を抱えた果歩はさっさと歩き始めてしまった。




