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6-1

 三人で喫茶店を出た。果歩が抱いた赤ん坊に指示されるまま、彼の母親がいる(と思われる)アパートへ向かった。


 商店街に戻り、坂を登ってその先のY字路を右に曲がる。前述した通り、そこから先は商店街から住宅街へと街並みが変化していく。


(やはりさっき自分が探した方向にこの子の親はいたのだ。もう少し辺りを探せばよかった、惜しいことをしたなあ)


 肩掛け鞄を肩に掛け、果歩のバッグとベビー用品の入ったレジ袋とを両手に提げて、果歩の後をついていきながら明良は悔やんだ。


 その間も風は休むことなく吹き荒れ、明良たちを容赦なくなぶった。明良と果歩は向かい風に時おり歩みをよたよたさせられながら黙って歩いた。


 Y字路の先を五十メートルほど歩くとコンビ二が一軒ある。更にそこからしばらく行くと明良が粉ミルク等を買ったドラッグストアが見えてくるのだが、赤ん坊はそのドラッグストアの手前、コンビ二を過ぎるとすぐ、


「こっちや」


と言った。見ると車一台も通れなさそうな幅の細道が、右斜めに出ていた。


「ここ? この細い道?」


 果歩が確認した。


「そうやで」


 果歩はそのまま細道を歩き出した。


 疲弊したアスファルト、その真ん中に蓋をされた排水溝が縦に一本通っていた。道の左右はうらぶれた住宅に変わった。古い家並み、といっても風情のある木造住宅などではなく、ぼろぼろのトタンの波板が壁を形成しているような家が多い。三人の他には人気はまるでなかった。


 途中、トタン造りの小さな平屋の賃貸住宅が二軒並んで建っていた。しかしどういう感覚からそうなされたのか、手前側の家は壁を黄色に、奥側は水色に塗り上げられていて、明良はそれを見て痛々しさすら感じた。


 埼玉県を含む北関東(と言うと埼玉県民は憤慨するのだろうが)の田舎の住宅地に、ときどきこんな、通るだけで気が滅入ってくるような路地があるものだ。昔、道によって富裕層と貧困層が分かれて住民が住んでいて、その名残なのだろうか――このような貧しさのにじみ出た家々の並ぶ路地を一本外れると、一転して裕福そうな広い庭付きの立派な一軒家が建ち並ぶ路地があったりする。明良たちが歩いているのはその貧しい方の路地であった。


 その細道から更に一つ道を折れた。先ほどよりはまずまずましな家の建ち並ぶ路地だった。比較的新しい建売住宅が散見された。その「ましな道」をずっと歩くと、住宅地の奥の奥に、ピンク色の怪しげなアパートが見えてきた。


「ここや!」


 赤ん坊が風音に負けぬよう声を張った。


 それは二階建ての鉄筋アパートで、L字型に二棟の建物が建っていた。外壁はピンクが主でところどころ横に水色とアイボリーのラインが入っている。どういうわけか屋根は平らではなくカマボコ型で、やはりピンクに塗られたそれが、どぎつく空に向かってそびえていた。築年数は相当深そうで、古びたアパート特有の陰気な雰囲気が遠目にも感じられる。誰がどんな意図からこんなけばけばしいアパートを作ろうと思ったのか、まるで想像がつかない。


(さすがダサイタマだなあ)


 明良は心の中で呟き、その一言でアパートの外観の奇異さを片付けた。果歩は黙ってアパートへ歩いた。


 104号室が自分たちの部屋だと赤ん坊が言うので、果歩と明良はそこへ向かった。


 L字型の建物は明良たちから見て正面と左手に建っている。その左手の棟の一階中ほどに104号室はあった。鉄製の玄関扉は灰色をしていた。


 果歩が「いい?」と胸に抱いた赤ん坊に確認を取り、ドアチャイムを鳴らした。反応が無かった。果歩は二度、三度と続けてチャイムを押した。がさがさっと部屋の中で物音がし、やがてがちゃりと扉が開いた。


 扉によく似た色のグレーのスウェットの上下を着た若い女が出てきた。

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