第七十六話(第93話) 狼と影の刃
ついにカエソと影の頭目が直接激突!
仲間たちの奮闘も並行して描くことで、帝都全体が戦場になっている緊張感を意識しました。
帝都の夜。
炎に照らされた石畳の上で、カエソと影の頭目が対峙していた。
周囲では民衆の悲鳴、兵士たちの怒号、そして血の匂いが渦巻いている。
「狼よ」
影の頭目は仮面の割れ目から冷たい瞳を覗かせた。
「群れを守ると言うが、結局は帝都を混乱に導いている。
貴様が立たなければ、影は静かに帝都を支配していたのだ」
カエソは剣を構え、低く吐き捨てた。
「影に支配された都に未来はない。
俺は獣と呼ばれようとも、光を選ぶ!」
——
刃が交わる。
金属音が夜空に響き、火花が散る。
影の頭目は短剣を二本操り、稲妻のような速さで突きを繰り出した。
心臓、喉、腹部――狙いはすべて急所だ。
カエソは力強い剣さばきでそれを受け止め、押し返す。
一撃ごとに腕が痺れるほどの衝撃。
「ぐっ……!」
それでも彼は踏み止まり、叫んだ。
「俺は……倒れぬ!」
——
一方、離れた街角ではルキウスが盾を振り回し、仲間の兵を守っていた。
「退くな! 狼の誇りを見せろ!」
血に塗れながらも踏み止まるその姿は、仲間の士気を支えていた。
屋根の上ではクラウディアが次々と矢を放ち、刺客たちを射抜く。
「夜明けまで……絶対に持たせる!」
そしてヴァレリアは街路で立ちはだかり、大剣で影の群れを薙ぎ払っていた。
「来いよ、影ども! 帝都は渡さねえ!」
それぞれの戦場で仲間たちが奮闘している。
だがすべては、カエソと頭目の一騎打ちの結末にかかっていた。
——
「甘いな、狼」
頭目の双剣が閃き、カエソの頬を掠めた。
血が流れる。
「仲間を守ろうとするその心こそが、貴様の隙だ」
カエソは息を荒げながらも、剣を強く握り締めた。
「隙ではない――強さだ!
仲間がいるから、俺は折れぬ!」
その瞬間、仲間たちの叫びが夜空に響いた。
「隊長ォォォ!」
「カエソ!」
その声が力となり、狼は再び前に踏み込んだ。
剣と双剣が正面からぶつかり合い、火花と共に衝撃が走る。
夜の帝都を揺るがす決戦は、いよいよ最高潮を迎えようとしていた。
——
【解説】
ローマ史では、一騎打ちのような「象徴的な戦闘」は民衆に強い印象を与えました。
実際には指揮官が個人戦を行うことは少なかったものの、文学や記録には「英雄対宿敵」という形で語られることが多かったのです。
ここでは史実の空気を取り入れつつ、物語的な熱さを意識して描きました。
第二章のラストは目前。
次回はいよいよこの死闘に決着がつきます。
狼が勝つのか、影が勝つのか――どうぞ最後までお見逃しなく!