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皇剣 〜ローマ戦乱記〜  作者: 辰桃
第二章 帝都の影
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第六十七話(第84話) 英雄か獣か

「英雄」か「獣」か――これはまさにローマの将軍たちが常に背負った二面性です。

今回は群衆の噂や会話を中心に描いてみました! 書いていて歴史感がぐっと出た気がします。

広場の火災は鎮まったものの、その余波は帝都全体へと広がっていた。


「狼が俺たちを助けてくれたんだ! あの混乱の中、道を切り開いてくれた!」

「いや、狼こそ火を放ったんだ! 奴が英雄に見えるのは演出だ!」


市井の酒場、浴場、行列のできるパン屋――あらゆる場所で議論が飛び交った。

人々の声は二つに割れ、どちらも熱を帯びていた。


——


兵営。

ルキウスが苛立った様子で報告をまとめる。

「半分は隊長を英雄と呼び、半分は獣と恐れてる。

影の同盟が噂を流してやがるんだ」


クラウディアは冷静に頷く。

「でも、民衆は確実に揺れている。英雄に見えるか、獣に見えるか……今が岐路よ」


ヴァレリアは壁に背を預け、にやりと笑った。

「獣扱いされても構わねえ。牙を見せてりゃ、そのうち真実は伝わる」


だがカエソは険しい顔で言葉を返す。

「真実だけでは足りん。

民の心は剣では掴めぬ……言葉でも行動でも、示し続けねばならない」


——


その頃、元老院の陰。

黒い外套を纏った影の同盟の一人が低く囁いた。

「計画通りだ。狼を英雄と呼ぶ声も、獣と呼ぶ声も広がっている。

いずれどちらも暴走し、帝都は混乱に沈む」


別の声が続ける。

「英雄であれ獣であれ、いずれ“皇帝”と呼ばれることになる。

だがその時こそ、我らが牙を突き立てる」


——


夜。

カエソは高台に立ち、燃え残る広場を見下ろしていた。

「英雄か、獣か……」

呟く声は風に消える。


クラウディアが隣に立ち、静かに言った。

「どちらでもいいじゃない。あなたが守るべきものを見失わなければ」


その言葉に、カエソはわずかに笑みを浮かべた。

「狼は……群れを守る。それだけは変わらん」


炎の残り香の中、決意の瞳が夜空を射抜いていた。


——


【解説】

古代ローマでは、将軍や政治家が「英雄」として讃えられる一方で「暴君」「獣」と恐れられるのも同じくらい早かったのです。

カエサルも「救国の英雄」と「共和国を滅ぼす怪物」の両方として語られました。

民衆の声が真っ二つに割れるのは、ローマ政治の常套でした。

カエソは英雄として称えられつつも、同時に獣と恐れられ始めています。

影の同盟の狙いは、まさにその“二面性”を利用して帝都を揺さぶること。

次回はその混乱の中で、さらに大きな策が仕掛けられます。

どうぞお楽しみに!


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