第六十六話(第83話) 炎上する広場
前書き
はい来ました! せっかくの演説が「火事」でぶち壊し!
でも、カエソが混乱の中で民を守る姿はむしろ熱かったですね。
戦場も議場も修羅場ですが、広場のパニックはまた別の迫力があります。
歓声が響き渡るフォルムの広場。
人々は拳を掲げ、「帝都の狼」を称え続けていた。
だが、その熱狂の中に、異様な火花が混じった。
「火だ! 火が出たぞ!」
群衆の一角から炎が立ち上がり、乾いた木の屋台に燃え移る。
瞬く間に広場は混乱の渦に飲まれた。
「逃げろ!」「押すな!」
歓声は悲鳴に変わり、押し合いが起きる。
——
カエソは石段から飛び降りた。
「落ち着け! 広場の外へ道を作れ!」
ルキウスが盾を掲げ、必死に民衆を誘導する。
「子供と女を先に出せ! 押し潰されるぞ!」
クラウディアは矢を放ち、屋根の上に潜んでいた火を放った者を射抜いた。
「……やはり影の同盟か」
ヴァレリアは炎の前に立ちふさがり、剣を振るって木材を叩き斬る。
「炎も影も、狼の前では獲物だ!」
——
やがて炎は鎮まりつつあったが、混乱は広場全体に広がった。
「狼が火を放ったのだ!」
「いや、狼が救ったのだ!」
民衆の声は二つに割れ、噂と怒号が入り混じる。
カエソは血に濡れた剣を掲げ、群衆に叫んだ。
「俺は狼だ! 群れを焼く者ではない、守る者だ!
影こそ、この都を焼こうとしている!」
群衆の中から再び歓声が湧き上がった。
だが、炎の煙はまだ帝都に重く垂れ込めていた。
——
【解説】
ローマ史では「大火」や「暴動」がしばしば政治の武器となりました。
有名な例では、ネロ帝時代のローマ大火があり、「放火の罪」を誰に押し付けるかで大きな争いとなりました。
影の同盟が「火」を使ったのも、そうした史実を踏まえています。
広場での火災は、影の同盟の罠でした。
民衆の心を掴んだはずのカエソですが、その一方で「狼が火を放った」という噂も流されてしまいました。
英雄か、獣か――次回はその答えをさらに揺さぶる展開に突入します!
どうぞご期待ください。