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皇剣 〜ローマ戦乱記〜  作者: 辰桃
第二章 帝都の影
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第六十四話(第81話) 帝都に広がる噂

議員の死によって、戦いはついに「噂」という新しい戦場に移りました。

戦場でも元老院でもなく、市民の間での言葉の戦い……ここが帝都編の醍醐味ですね。

夜明けの帝都。

市場に集まる人々の口から口へ、一つの噂が広がっていった。


「また血が流れたらしいぞ」

「元老院の議員が、帝都の狼に捕らえられたが、毒を飲んで死んだって話だ」

「狼が仕組んだのでは?」

「いや、逆だ。狼は真実を暴こうとしたのだ」


噂は尾ひれをつけ、瞬く間に市民の間で炎のように燃え広がっていく。

狼を英雄と崇める者もいれば、血に飢えた獣と恐れる者もいた。


——


兵営に戻ったカエソは、部下の報告を受けていた。

「隊長、街の者たちは半分があなたを称え、半分が疑っています。

敵は……噂を操っているようです」


クラウディアは地図を広げ、冷静に言った。

「影の同盟は情報戦でも優位ね。市井の噂すら武器にしている」


ルキウスは苛立ちを隠さず拳を握りしめた。

「ちくしょう、戦場なら剣で片をつけられるのに……言葉の戦いじゃ、どうしていいか分からねえ!」


ヴァレリアが剣を肩に担ぎ、不敵に笑った。

「ならば噂を噛み砕くしかない。

……狼が牙を剥けば、民はどちらが真実かを直に見ることになるだろう」


カエソは静かにうなずいた。

「影は剣だけではなく、言葉と噂で帝都を支配している。

ならば俺は……剣と共に言葉も持つ狼になる」


——


その頃、元老院の一角。

生き延びた影の同盟の者たちが密談を交わしていた。


「議員は沈黙を守った。だが……狼の名はますます広まっている」

「恐怖も同時に広まっている。我らにとって好都合だ。

英雄はやがて、恐怖の象徴として民に憎まれるだろう」


暗闇に潜む声は、冷たく嗤っていた。


——


【解説】

古代ローマでは「噂」が政治を左右する大きな力を持っていました。

新聞のようなものはなく、広場や市場での口伝えが情報のすべて。

そのため、敵対者を悪人に仕立て上げるための「流言」や「風説の流布」は頻繁に行われました。

カエサルやクラッススも、噂操作に長けていたことが知られています。

影の同盟は、剣や毒だけではなく「噂」を使ってカエソを追い詰めようとしています。

次回は、その噂に対抗するためにカエソがどう動くのか。

狼が「言葉」を武器にする瞬間を描いていきます。

どうぞお楽しみに!


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