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皇剣 〜ローマ戦乱記〜  作者: 辰桃
第一章 北の狼、ドナウに吠える
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第八話 密偵の夜

第八話では、戦場の外で進む裏切りと情報戦を描きました。

カエソは「帝国の中にも敵がいる」という事実を知り、戦争の形が剣と盾だけではないことを痛感します。

パンノニア駐屯地の夜は静かだった。

だがその静けさの中で、異様な気配があった。


カエソは巡回任務についていた。

月明かりに照らされた柵の上を歩きながら、耳を澄ます。

微かに、雪を踏む音──しかも複数だ。


「止まれ!」

声を上げた瞬間、黒い影が柵を越えようとしていた。

月光に一瞬、毛皮の裾と鉄の刃が光った。


影の一人が短剣を振り下ろしてきた。

カエソは咄嗟に盾で受け、反撃の突きを繰り出す。

鈍い悲鳴とともに影が倒れ、もう一人が闇の中へ走った。


「追え!」

マルクが数人を率いて走り、森の手前でその影を捕らえた。

捕らえられた男は、ゲルマン族の戦士……ではなかった。

髪も衣服もローマ人のもの。


「……何者だ?」

「元老院派の命令で動いていた密偵だ」

後方からクラウディアが現れ、男を鋭く見下ろした。

「補給路の情報と軍の配置……あなたはそれを敵に渡すつもりだったのね」


密偵は口を噤んだままだったが、その沈黙が答えだった。

クラウディアは視線をカエソに向けた。

「これで分かったでしょう。ローマの中にも、外と繋がる敵がいる」


その夜、捕らえた密偵は翌朝には姿を消していた。

牢の鍵は壊され、見張りの兵士は喉を切られていた。

カエソは暗闇の中で、誰かの視線を感じた。

冷たい風とともに、あの太鼓の音が耳に蘇る──アールヴの部族の音だ。

この回は、戦闘よりも緊張感を重視しました。

密偵の存在は、物語後半の大規模な裏切りと情報操作の伏線になります。

次回は、アールヴ側の視点で描く「北の狼の戦略編」に突入します。

ブックマークや評価で応援していただければ、次回更新の励みになります。

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