第五十五話(第72話) 大広間の死闘
華やかな宴が一瞬で血の戦場に――これぞ帝都編の真骨頂!
今回は仲間たちの連携と、混乱の中での迫力ある戦闘を重視して書きました。
大広間の豪奢な天井に、悲鳴と金属の響きが反響する。
葡萄酒の壺が割れ、流れ出た赤い液はやがて血と混ざり合い、床を紅に染めていった。
「帝都の狼を殺せ!」
「影の同盟に刃向かう者は死だ!」
暗殺者たちは次々と剣を抜き、煌びやかな宴席を踏み荒らして襲いかかる。
——
「下がれ!」
ルキウスが盾を構え、近づく敵を弾き飛ばす。
その隙を逃さず、クラウディアの矢が柱の陰から放たれ、敵兵の喉を正確に貫いた。
「ここは狭い、矢を使えるのは限られる!」
クラウディアが叫ぶ。
「なら私が切り開く!」
ヴァレリアが獣のような咆哮を上げ、剣を閃かせる。
細剣は舞うように敵の隙間を突き、瞬く間に二人を倒した。
——
カエソは大広間の中央に立ち、敵の刃を正面から受け止めた。
剣と剣が激しく打ち合い、火花が散る。
「狼を狩るだと? ――群れを舐めるな!」
渾身の一撃で敵の剣を弾き飛ばし、喉を裂く。
血飛沫が杯を赤黒く染め、民衆の悲鳴が響き渡る。
——
その時、豪奢な席に座っていたある議員が震える声で叫んだ。
「やめろ! ここは元老院の宴だぞ!」
だが暗殺者の頭目は冷たく言い放った。
「影の同盟に逆らう者に、立場は関係ない」
そして刃を議員の胸に突き立てた。
その瞬間、広間にいた貴族たちは悲鳴と共に四散し、混乱はさらに増した。
——
「このままでは民衆の信も失う!」
クラウディアが叫ぶ。
カエソは即座に決断した。
「敵の頭を討つ! 混乱の元凶を叩き斬れ!」
ヴァレリアとルキウスが左右に広がり、道を切り開く。
カエソは突撃し、頭目と剣を交えた。
「狼よ! 影は決して倒せぬ!」
「狼は群れを守る限り、不滅だ!」
刃が交錯し、血煙の中で帝都の未来を賭けた死闘が始まった。
——
【解説】
ローマの宴はしばしば権力闘争の舞台となりました。
毒殺、暗殺、そして暴力による見せしめ――豪華な広間が一夜にして血の舞台へと変わるのは史実でも度々ありました。
今回の描写は、古代史に残る「元老院内での刃傷沙汰」や「晩餐中の暗殺事件」をモチーフにしています。
カエソがいよいよ敵の頭目と対峙しました。
戦場ではなく大理石の大広間での戦い……場の緊張感が一段と高まっています。
次回はその死闘の決着と、帝都に新たな波乱を呼ぶ展開を描きます。
ぜひ続きをお楽しみに!