第五十三話(第70話) 黒幕の影
刺客の背後に潜む「黒幕」がついに姿を現しました!
その名も「影の同盟」。ただの敵将ではなく、帝都を動かす闇の組織です。
カエソの戦いは、いよいよ帝都そのものを相手にする段階へ突入します。
翌朝。
カエソの邸宅には、刺客の死体が整列していた。
兵たちは不安げに囁き合う。
「誰がこんな数を差し向けたんだ……」
「帝都の狼を殺そうとするなんて……」
クラウディアは冷静に矢を拭きながら言った。
「問題は敵の腕ではなく、資金と組織よ。あれほどの刺客を動かすには、背後に強大な権力がいる」
ヴァレリアが唇を歪める。
「狼の牙が怖くて、闇から狙ってくる臆病者か。誰だ?」
——
その問いに答えるように、客人が訪れた。
老議員ルキウス・カッシウス。
杖を突きながら、低い声で言った。
「……カエソ。黒幕は、おそらく『影の同盟』だ」
「影の同盟?」
ルキウスが頷く。
「元老院の一部と、帝都の大商人、そして傭兵団。
彼らは表では敵対しているように見えて、裏では結託している。
英雄が現れれば排除し、混乱を操り、自らの利益を肥やす……古くからの悪しき連中だ」
——
カエソは拳を握りしめた。
「つまり、俺が標的になったのは……帝都の腐敗そのものが原因か」
ルキウスは静かに目を細めた。
「そうだ。お前は兵と民に支持されすぎた。彼らにとって、英雄は秩序を壊す災厄に等しい」
クラウディアが眉を寄せる。
「正面から潰せない以上、刺客や陰謀で削る……厄介ね」
ヴァレリアは剣を握りしめ、にやりと笑った。
「なら、こちらから狩ればいい。狼は影の中でも獲物を嗅ぎ当てる」
——
その夜。
カエソは一人、帝都の大理石の街路を歩きながら考えていた。
(俺はもう、ただの兵ではない。
帝都の腐敗そのものと戦わねばならぬのか……)
月明かりに照らされるその横顔は、すでに一将軍を超えた何かを背負う者のものだった。
——
【解説】
古代ローマでは、元老院や大商人の派閥が裏で結託し、政争や暗殺を繰り返すことがよくありました。
特に「裏の同盟(amici)」と呼ばれる非公式な派閥は実在し、政治や軍事のバランスを大きく揺るがしました。
こうした腐敗が積み重なり、やがて「軍人皇帝時代」へと突入していきます。
今回で陰謀の輪郭がはっきりしてきましたね。
戦場の敵よりも厄介なのは、見えない敵……帝都の影たちです。
次回はその「影の同盟」の牙がさらに深く突き立ち、物語は大きく動きます。
どうぞお楽しみに!