第四十六話(第63話) 元老院の裁き
ついに来ました、元老院での裁き!
剣ではなく言葉と証言で戦う場面、緊張感を込めて書きました。
戦場と違い、声の一つひとつが刃になる……そんな雰囲気が伝われば嬉しいです。
ローマ元老院――大理石の円形議場。
柱の森に囲まれ、百人を超える議員が座し、帝都の未来を決める声が渦を巻く。
その中央に立つのは、カエソとプブリウス・コルネリウス。
今まさに「暗殺の黒幕」を巡る裁きが始まろうとしていた。
「諸君!」
プブリウスが堂々と声を張り上げる。
「この若き将軍カエソは、偽りの羊皮紙をでっちあげ、私を陥れようとしている!
このような狼を放置すれば、やがては皇帝の座を狙い、共和を踏みにじるだろう!」
議場にざわめきが走る。
元老院の多くは彼に賛同するように見えた。
だが――
「静粛に!」
老議員ルキウス・カッシウスが杖を叩きつけ、声を張った。
「この場には、すでに証言者が揃っている。暗殺の指示を受けた者、その金を運んだ者、全てが口を開いた!」
扉が開き、震える証人たちが入ってくる。
彼らは一斉にプブリウスの名を告げた。
「コルネリウス家より銀貨を受け取り、暗殺を命じられました!」
「確かに、署名は閣下ご自身のものでした!」
——
「戯言だ!」
プブリウスは顔を紅潮させ、叫ぶ。
「彼らは買収されたに違いない!」
カエソが一歩前に出た。
「ならば俺の命を狙った理由を言え。なぜ兵営に刃を送った?」
議場が静まり返る。
プブリウスの唇が震える。
答えられぬことこそが答えだった。
——
「元老院の名において、プブリウス・コルネリウスを糾弾する!」
カッシウスが宣言し、多くの議員が杖を掲げた。
プブリウスは崩れ落ち、血の涙を流すように吐き捨てた。
「……狼め。いずれその牙が、帝都そのものを裂くだろう」
こうして、カエソは「帝都の狼」として民衆と兵から英雄視されることとなった。
だが同時に、その名は元老院に深い恐怖を刻み込んだのだった。
——
【解説】
ローマ元老院での裁判や弾劾は、史実でもしばしば行われました。
証拠や真実そのものよりも、「誰が多数派を握るか」「どの証人を動かせるか」で結果が決まることが多かったのです。
カエサル、キケロ、カティリナ陰謀事件なども、こうした「公開の場での政治劇」として有名です。
今回の描写は、その伝統を意識しています。
プブリウスとの直接対決は、ひとまずカエソの勝利で終わりました。
これで「帝都の狼」という異名がさらに広まることになります。
ただし、元老院に恐れられる存在になった以上、今後はますます大きな陰謀に巻き込まれるでしょう。
次回からは、帝都の外――再び戦場の炎が広がっていきます!




