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皇剣 〜ローマ戦乱記〜  作者: 辰桃
第二章 帝都の影
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第三十八話(第55話) 元老院の策謀

帝都の元老院で、ついにカエソの名が政治の駒にされ始めました。

戦場と違って「誰が敵か分からない」緊張感はやっぱりゾクゾクしますね。

今回のカエソの一言は議場に波紋を呼び、物語を大きく揺さぶる展開になったと思います。

ローマの元老院。

かつて共和国時代には国家を導いた誇り高き議場も、この時代にはすっかり権力闘争の舞台へと変貌していた。


「カエソ・ウァレリウス! 砂漠での戦果、確かに賞賛に値する!」

老議員のひとりが声を張り上げる。

「だが、軍団を率いる者が市民に支持されるのは危険だ。過去のスッラやマリウスの例を忘れたのか!」


別の議員が応じる。

「何を言うか! 混乱の時代に軍を握る英雄なくしてローマは立ちゆかぬ。彼こそ次代の執政官に推すべきだ!」


議場は一気に罵声と怒号に包まれる。

机が叩かれ、トガが揺れ、議員同士が掴み合いそうになるほどだった。


——


カエソは沈黙を保ちつつ、その光景を見ていた。

砂漠で剣を交えるよりも、ここで言葉を武器にした戦いの方がよほど危険に思えた。


クラウディアが小声で囁く。

「……お気をつけください。彼らは貴方を持ち上げることで勢力を広げようとしている。

称賛は毒、賛美は罠。うかつに乗れば、利用されるだけよ」


ヴァレリアもまた冷ややかに言った。

「この場に敵は見えぬ。だが匂いは戦場と同じだ。血の匂いがする」


——


やがて、発言権を得た中年の議員が立ち上がった。

彼の名はプブリウス・コルネリウス。

元老院の有力者にして、陰で皇帝派を動かす策士だった。


「諸君、我らは忘れてはならぬ。ローマに必要なのは秩序だ。

カエソ・ウァレリウス殿の勇名を利用し、民衆を鎮めるのが最良の策だろう」


「利用……だと?」

ルキウスが思わず声を荒げたが、カエソが手で制した。


カエソは静かに答える。

「ローマを守るための剣は振るう。だが、権力の椅子には興味はない」


その言葉に一瞬、議場が静まり返った。

だがすぐに、議員たちの間で新たな囁きが飛び交う。

「……本心か?」

「いや、あれは装いだろう」

「ならばますます危険だ」


カエソの存在は、知らず知らずのうちに帝都の均衡を揺さぶっていた。


——


【解説】

元老院の混乱は、紀元3世紀のローマを象徴しています。

この時代、軍団を率いる将軍はしばしば英雄視され、やがては皇帝に推される存在となりました。

かつてのマリウスやスッラが軍を背景に政治を動かしたように、元老院は軍司令官を恐れつつも利用しようとしました。

「軍人皇帝時代」とは、まさにこの構造から生まれた混乱の時代なのです。

元老院の策謀は、史実をベースにしつつも「戦場よりも危険な政治劇」を描いてみました。

ローマ史を知っている方なら、「あ、これはあの出来事に繋がるのか」と想像できるかもしれません。

次回はさらに一歩踏み込み、帝都の裏社会や他の将軍の動きも見えてきます。

戦場の剣と政治の駆け引き、その両方が交錯していく展開にしていきます!

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