第三十一話(第48話) 包囲の鉄槌
今回からサフラの戦術「鉄槌」が本格的に動き出しました。
両翼から迫る大突撃の圧力は、読んでいるだけでも押し潰されそうな迫力があったと思います。
ルキウス・クラウディア・ヴァレリア、それぞれが自分の役割を果たして陣形を支える姿も、まさにチーム戦でしたね。
サフラの号令によって再び組み直された敵陣は、見事な弧を描いていた。
その動きは無駄がなく、砂漠の海に張られた巨大な網のよう。
そしてその両翼がじわじわと迫り、カエソたちを押し潰そうとしていた。
「……鉄槌の陣形だ」
クラウディアが蒼白な顔で呟く。
「敵は弧を広げてから両翼で畳み込む。中央にいる我らを圧し潰すための戦術よ」
兵たちの顔から血の気が引いた。
「挟まれるぞ……!」
「もう逃げ道が……!」
だが、カエソは恐怖を振り払うように剣を掲げた。
「鉄槌ならば、砕けるまで叩き返せばいい! 狼は狩られる獲物じゃない、獲物を食らう者だ!」
その声に、兵たちの瞳に再び火が宿る。
——
轟音とともに、両翼の騎兵が一斉に迫る。
砂煙が空を覆い、視界が閉ざされる。
それはまさに大地ごと潰そうとする鉄槌。
「構えろ!」
カエソの号令と同時に、兵たちは盾を突き立て、槍を構えた。
重圧のような突撃が直撃し、盾列が軋み、槍が折れる。
「うおおおっ!」
ルキウスが咆哮し、巨大な体で敵兵を押し返す。
その姿はまるで暴れ牛のごとく、前線を支える柱となっていた。
——
その背後で、クラウディアが矢を次々と放つ。
「崩れたら終わりよ! 必死に食らいつきなさい!」
火矢が敵陣を燃やし、混乱を広げる。
さらに、ヴァレリアが影のように敵陣を駆け抜け、要となる旗手を斬り伏せた。
「ぐっ……旗が……!」
「隊列が乱れるぞ!」
一瞬の隙を突いて、カエソは叫んだ。
「今だ、押し返せ!」
兵たちが力を振り絞り、乱れた敵を逆に弾き飛ばす。
——
だがサフラは遠くから冷静にその光景を見ていた。
「なるほど……しぶとい。
だが鉄槌は一度で終わらぬ。打ち続ければ、必ず砕ける」
サフラの手が再び上がる。
第二陣の騎兵が動き出し、さらに大きな鉄槌が迫ろうとしていた。
「……まだ終わらせるつもりはないか」
カエソは歯を食いしばり、剣を握る。
戦場は、さらなる地獄へと変わっていこうとしていた。
敵の「鉄槌」はまだ第一撃。
サフラは何度も同じ衝撃を叩き込み、ローマ兵をすり潰そうとしています。
次回はいよいよカエソが正面に立ち、仲間を守るための決死の突撃に挑みます。
戦いはさらに苛烈さを増していきます。