第二十三話(第40話) 逆襲の狼煙
今回は籠城戦からの逆襲を描きました。
冷徹な剣士ヴァレリア(羌瘣的要素)、豪快なルキウス(蒙武的要素)、策を巡らすクラウディア(昌平君・李牧的要素)、そしてカエソ自身は王騎のように豪放磊落なカリスマ性を帯びています。
敵の包囲を打ち破る“逆襲の狼煙”は、アニメ化した場合も映像映えするシーンとなるでしょう。
夜の要塞は静まり返っていた。
だがその沈黙の奥で、確かに熱がくすぶっていた。
敗北寸前まで追い込まれ、なお生き残った兵たちの胸に──反撃の炎が燃え始めていた。
カエソは城壁上に立ち、眼下のパルティア軍を見据える。
彼の影は炎に照らされ、巨大な戦神のように映った。
「ここで守るだけでは、いずれ餓えて潰える。だが……狼は牙を剥く時こそ恐ろしい」
その隣に立つのは、無言の剣士ヴァレリア。
暗殺者の一族出身という噂を持つ彼女は、常に無表情で、仲間と深く交わることを避けていた。
だが今、その冷たい瞳にわずかな揺らぎがある。
「……夜なら、私が道を開く」
低い声で呟くヴァレリアに、兵たちは息を呑んだ。
彼女の剣舞は、味方でさえ畏れるほど速く、鋭い。
「ふっ……面白い娘だ」
ルキウスが豪快に笑う。
筋骨隆々の豪傑である彼は、常に力で道を切り開くことを信条とする。
「ならば俺がその道を広げてやる! 押し潰すのは得意だ!」
クラウディアは薄く笑みを浮かべる。
「なら私は智を巡らせる番ね。敵の目を逸らせる策を仕掛ける」
その様子を見て、カエソは豪快に笑い声をあげた。
「いいぞ! ローマの獅子たちよ! 今宵、逆襲の狼煙を上げる!」
——
夜半。
ヴァレリアを先頭に、精鋭部隊が闇を裂いて出撃する。
彼女の剣は月光を帯び、影の中を疾る。
敵兵の喉を次々と断ち切り、道は静かに開かれていく。
その後方から、ルキウスが鬨の声を上げて突撃。
「うおおおおおっ!!!」
槍を薙ぎ払い、盾ごと敵兵を吹き飛ばす様は、まるで猛牛のようだった。
そして、クラウディアの策が敵陣を混乱させる。
あらかじめ火矢を仕込み、複数の場所から同時に炎が上がった。
敵兵は本陣が襲われたと錯覚し、隊列が乱れる。
「今だ──!」
カエソが叫び、全軍が狼のように吠えながら突撃した。
敵の補給線に火が放たれ、食料が次々と炎に包まれていく。
——
夜空に赤々と燃え上がる炎は、まさに逆襲の狼煙。
要塞に残った兵たちもその光を見上げ、歓声を上げた。
「ローマは生きている!」
「まだ戦えるぞ!」
その声は、絶望に沈みかけた心を再び奮い立たせた。
カエソは剣を掲げ、炎の中で吠えた。
「聞け! これがローマの牙だ! 我らは獲物ではない、狩る側だ!」
その姿に、兵たちは震えながらも歓喜した。
そして敵は、ローマの獅子たちの咆哮を恐れ始めていた。
籠城一辺倒から一転、外へ牙を剥いたカエソたち。
これにより戦況は大きく揺れ動きます。
次回は、パルティア側の「知将」が動き出し、さらなる頭脳戦が展開されます。