第四話 戦場に残るもの
戦いは剣と血だけでは終わらない。
戦場に残るもの、それは死体と痛み、そして次の戦いへの恐怖だ。
初陣を終えたカエソが見たのは、兵士として避けられない現実だった。
戦は終わった。
だが、戦場は沈黙しない。
雪に覆われた地面には、倒れた兵士たちが横たわっている。
赤黒い血は凍り、甲冑や盾にこびりついていた。
カエソはその中で立ち尽くしていた。手の中のグラディウスはまだ温もりを残している。
「動け、新兵。死人になる前にな」
背後からウルスの低い声が響く。
「負傷者を後方へ運べ。戦場は終わっても、兵士の仕事は終わらん」
言われるまま、カエソは仲間の腕を肩に担ぎ上げた。
息は弱く、体は冷たくなりつつある。
マルクは近くで足を引きずりながらも、別の負傷兵を支えている。
「足が終わっても、腕はまだ動く。やれるうちはやるんだ」
その言葉に、カエソは小さく頷いた。
陣へ戻ると、補給所ではクラウディアが忙しく動いていた。
負傷者の治療指示、物資の再配分、戦死者の名簿整理──
彼女の表情は冷静だったが、その手は微かに震えていた。
「あなた……初めての戦場だったのね」
「……ああ」
「じゃあ覚えておきなさい。戦場で本当に怖いのは、戦っている最中じゃない。
戦いが終わって、静かになった時よ」
夜、軍営に冷たい風が吹き込む。
焚き火の明かりの中、兵士たちは酒を酌み交わす者、黙り込む者、泣き崩れる者、それぞれだった。
カエソは一人、剣を磨きながら空を見上げた。
月は薄雲に隠れ、闇の向こうからは不気味な鳥の声が聞こえる。
その夜、彼は知らずに耳を澄ませていた。
やがて、遠くからかすかな太鼓の音──
それは、次の戦乱の合図だった。
第四話では、戦後の静けさと次なる戦乱への予兆を描きました。
キングダム風の「戦の間の緊張感」を意識し、動きが少ない中で心の動きを強く出しています。
次回は、新たな戦場への出陣と、物語に大きく関わる新勢力の登場です。
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