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皇剣 〜ローマ戦乱記〜  作者: 辰桃
第一章 北の狼、ドナウに吠える
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第四話 戦場に残るもの

戦いは剣と血だけでは終わらない。

戦場に残るもの、それは死体と痛み、そして次の戦いへの恐怖だ。

初陣を終えたカエソが見たのは、兵士として避けられない現実だった。

戦は終わった。

だが、戦場は沈黙しない。


雪に覆われた地面には、倒れた兵士たちが横たわっている。

赤黒い血は凍り、甲冑や盾にこびりついていた。

カエソはその中で立ち尽くしていた。手の中のグラディウスはまだ温もりを残している。


「動け、新兵。死人になる前にな」

背後からウルスの低い声が響く。

「負傷者を後方へ運べ。戦場は終わっても、兵士の仕事は終わらん」


言われるまま、カエソは仲間の腕を肩に担ぎ上げた。

息は弱く、体は冷たくなりつつある。

マルクは近くで足を引きずりながらも、別の負傷兵を支えている。

「足が終わっても、腕はまだ動く。やれるうちはやるんだ」

その言葉に、カエソは小さく頷いた。


陣へ戻ると、補給所ではクラウディアが忙しく動いていた。

負傷者の治療指示、物資の再配分、戦死者の名簿整理──

彼女の表情は冷静だったが、その手は微かに震えていた。


「あなた……初めての戦場だったのね」

「……ああ」

「じゃあ覚えておきなさい。戦場で本当に怖いのは、戦っている最中じゃない。

 戦いが終わって、静かになった時よ」


夜、軍営に冷たい風が吹き込む。

焚き火の明かりの中、兵士たちは酒を酌み交わす者、黙り込む者、泣き崩れる者、それぞれだった。

カエソは一人、剣を磨きながら空を見上げた。


月は薄雲に隠れ、闇の向こうからは不気味な鳥の声が聞こえる。

その夜、彼は知らずに耳を澄ませていた。

やがて、遠くからかすかな太鼓の音──

それは、次の戦乱の合図だった。

第四話では、戦後の静けさと次なる戦乱への予兆を描きました。

キングダム風の「戦の間の緊張感」を意識し、動きが少ない中で心の動きを強く出しています。

次回は、新たな戦場への出陣と、物語に大きく関わる新勢力の登場です。

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