表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
皇剣 〜ローマ戦乱記〜  作者: 辰桃
第二章 帝都の影
35/97

第十八話(第35話) 静かなる包囲網

今回は攻城戦の第二段階──兵糧攻めを描きました。

戦場では剣だけでなく、補給線と心理戦が勝敗を左右します。

カエソの夜襲は「不屈」を敵に見せつけるための一撃でした。

総攻撃の翌朝。

要塞を包囲するパルティア軍の陣営は静まり返っていた。

敵兵の姿は見えるが、矢も槍も飛んでこない。

代わりに、要塞を取り囲む野営の焚火からは、濃厚な肉の匂いと香辛料の香りが漂ってくる。


兵士たちは唾を飲み込み、空腹に呻いた。

昨日の戦闘で蓄えは一気に減り、残る糧食はわずか数日分。

井戸の水も矢で汚され、濁ってきている。


「……奴ら、兵糧攻めに切り替えたな」

ルキウスが低く呟いた。

「正面からの突撃で崩せないなら、飢えで折る。古典的だが確実だ」


城壁の上から見下ろすと、敵陣営には豊かな補給隊が行き来し、食料が山のように積まれている。

その余裕を見せつけるかのように、敵兵は笑いながら肉を焼き、酒を酌み交わしていた。


「こちらの兵の心を折るための見せつけね」

クラウディアが唇を噛む。

「だが、こちらも黙っているわけにはいかない」

カエソの瞳に炎が宿った。


——


その夜。

カエソは精鋭を率い、密かに要塞を出た。

闇に紛れ、音を殺して敵の補給路を目指す。

峡谷を抜けた先に、護衛の薄い補給隊が焚火を囲んでいた。


「合図と同時に突撃だ」

カエソが短く告げ、腕を振り下ろす。


闇の中から飛び出したローマ兵たちが、刃を閃かせて補給隊を蹴散らした。

荷車に積まれた食糧が炎に包まれ、夜空に黒煙が舞う。

敵陣から混乱の叫びが広がり、騎兵が慌てて駆け寄ってくる。


「退け! すぐに戻るぞ!」

敵が追いつく前に、カエソたちは要塞に駆け戻った。


——


翌朝、城内に歓声が響いた。

「敵の補給を焼いた! まだ戦えるぞ!」

兵たちの士気は一気に持ち直し、昨日までの疲弊した目に再び光が宿る。


だが、クラウディアは冷静に言った。

「一度の襲撃では、戦況をひっくり返せない。敵は補給線をさらに厳重に固めてくるわ」


カエソは頷いた。

「それでもいい。奴らに“容易には折れぬ”と刻み込めれば、それで十分だ」


要塞を取り巻く炎の輪は、まだ途切れてはいなかった。

籠城の試練は、これからが本番だった。

戦場は一進一退。

敵は兵糧攻めで長期戦に持ち込み、カエソは奇襲で応じる。

だが、この消耗の先に待つのはさらなる苦難です。

次回は、要塞内での「絶望」と「裏切り」の兆しを描きます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ