第十七話(第34話) 最初の総攻撃
今回は籠城戦における最初の総攻撃を描きました。
数で押し寄せる敵に対し、防御側は士気と声で陣形を支えるしかありません。
カエソの檄は、兵の恐怖を押さえ込むために必要な「武器」でした。
暁の空が白み始めた瞬間、地平線に並ぶパルティア軍の旗が一斉に翻った。
次いで鳴り響くのは、低く重い太鼓の連打。
それは総攻撃開始の合図だった。
「来るぞ──!」
ルキウスの叫びと同時に、数千の足音が大地を揺らす。
パルティア軍の歩兵が盾を前に押し出し、弓兵がその背後から矢を放つ。
さらに騎兵が両翼を疾走し、要塞を包囲しながら突撃の態勢を整えていった。
城壁上では、ローマ兵たちが盾を掲げて待ち構えていた。
矢の雨が容赦なく降り注ぎ、金属と木を叩く音が要塞全体を震わせる。
何人かが呻き声を上げ、壁の上に崩れ落ちた。
「投石器、用意──放て!」
カエソの号令で、城内の投石器が唸りを上げた。
巨大な石弾が唸りをあげて飛び、敵陣中央に落ちる。
地響きとともに人馬が潰され、悲鳴が上がる。
だが敵も怯まない。
突撃してきた歩兵が梯子を掛け、城壁をよじ登り始めた。
最前列の兵が斬り合いに突入し、要塞は一気に肉弾戦の修羅場と化す。
「押し返せ! 一歩も引くな!」
カエソは前線に立ち、大盾で敵を突き落としながら剣を振るう。
隣ではルキウスが敵兵を斬り伏せ、クラウディアが矢を次々と射抜いた。
だが敵の圧力は止まらない。
梯子は次々と掛けられ、どれだけ倒しても次の兵が登ってくる。
守備兵の一人が恐怖に駆られ、盾を捨てて逃げ出そうとした瞬間、カエソが声を張り上げた。
「逃げるな! ここはローマだ! お前たちの背後には、祖国の民がいる!」
その叫びは兵たちの耳を打ち、崩れかけた陣形を再び繋ぎ止めた。
——
戦闘は半日続き、要塞全体が血と煙に包まれた。
夕刻、ついにパルティア軍は攻撃を退き、野営地へ戻っていく。
勝利はした。だが代償は重い。
守備兵の三分の一が倒れ、残った者も疲労困憊だった。
城壁の上で夕陽を浴びながら、カエソは呟いた。
「……これが最初の一撃か。ならば次は、もっと苛烈になる」
初日の総攻撃を凌いだものの、戦力差は埋まらず、消耗戦の幕が開きました。
籠城戦は一度の勝利では終わらず、飢え・渇き・士気の低下との戦いも始まります。
次回は、その「静かなる圧力」と、次なる敵の策謀を描きます。