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皇剣 〜ローマ戦乱記〜  作者: 辰桃
第二章 帝都の影
33/97

第十六話(第33話) 籠城の序曲

今回は要塞籠城戦の始まりを描きました。

数で圧倒する敵に対し、守備側は士気と戦術で応じなければなりません。

カエソが兵士たちの心を繋ぎ止める姿は、彼の指揮官としての真価が問われる場面です。

要塞の城壁に登ったカエソは、東方の大地を覆う黒い影を見た。

砂煙の向こう、無数の槍と旗がうねり、幾重にも取り巻いている。

パルティア軍本隊──その数、おそらく五千。


守る側は千にも満たない。

圧倒的な差を前に、兵士たちの顔には恐怖の色が濃かった。


「……兵の心が折れる前に、手を打たねばならん」

カエソは城壁に沿って歩き、兵たちに声をかけて回った。


「よく持ちこたえてくれた! お前たちの奮闘があったからこそ、我らは間に合ったのだ!」

その言葉に、疲弊しきった守備兵の目にかすかな光が戻る。


ルキウスが横で笑った。

「まるで役者だな、将軍。だが兵はそういう芝居に救われる」


夜になると、パルティア軍は要塞を遠巻きに焚火を焚き、城内に圧力をかけ続けた。

火の海のような野営の灯りを見下ろしながら、クラウディアが口を開く。


「彼らは焦らない。包囲して飢えと渇きでこちらを屈服させる気よ」

「ならば、奴らの計算を狂わせるしかない」

カエソは即座に答えた。


——


翌朝。

敵軍はまず威嚇として騎兵を繰り出し、城壁に矢の雨を降らせた。

だがカエソは防御兵を分散させず、あえて一点に集中させた。

狭い区画に兵を密集させ、盾の壁を厚く築き、矢を無効化する。


その間に、別の区画から投石器を稼働させ、敵陣中央の焚火を打ち抜いた。

燃え広がった炎と混乱で、敵陣の秩序が崩れる。


「奴らに思い知らせろ! 籠城戦でも、我らは牙を持つ!」

カエソの叫びに、城内から鬨の声が響いた。


——


その夜、敵陣営からは低い太鼓の音が響き渡った。

規則正しい鼓動のようなその音は、まるで要塞を飲み込む前触れのようだった。


クラウディアが囁く。

「……始まるわ。奴らの本格的な攻囲戦が」


要塞の松明が再び燃え上がり、夜空を焦がした。

籠城の戦いは、今まさに序曲を奏で始めた。

包囲の太鼓が鳴り響く中、籠城戦はいよいよ本格化します。

次回は、食糧・水・兵力の差が露わになる中での「最初の大規模攻撃」を描きます。

要塞を守る者たちの覚悟と、敵の猛攻──戦場は新たな局面へ。

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