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皇剣 〜ローマ戦乱記〜  作者: 辰桃
第二章 帝都の影
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第十四話(第31話) 峡谷の迎撃戦

今回は峡谷での迎撃戦を描きました。

地形を活かし、防御から一気に突破へ転じる戦術は、ローマ軍の強みである「柔軟な戦術転換」を象徴しています。

パルティアの弓騎兵戦法は史実でもローマ軍を苦しめましたが、狭い地形ではその機動力が封じられました。

峡谷に風が唸り、砂塵が舞う。

その向こうから姿を現したのは、二百騎のパルティア斥候部隊。

彼らは軽装騎兵で、湾曲した弓を掲げ、馬上から素早く矢を放つことで知られていた。


「隊列を崩すな! 盾を上げろ!」

カエソの号令とともに、ローマ兵たちは狭い峡谷に横一列の防御陣形を築いた。

重装歩兵の大盾が一斉に上がり、金属の壁のように並ぶ。


第一射。

無数の矢が雨のように降り注ぐが、盾に弾かれた音が峡谷に響いた。

わずかに隙間を抜けた矢が兵の腕や脚をかすめるも、致命傷には至らない。


「応射!」

合図とともに、岩陰に潜んでいた射手たちが弓を放つ。

狭い峡谷では敵の馬は速度を出せず、逃げ場を失った数騎が矢に倒れた。


だが、敵はすぐに陣形を変える。

前列の騎兵が盾を構え、後列の騎兵がその隙間から矢を放つ。

まるで波のように絶え間なく攻撃を繰り出してくるのが、パルティア流だ。


「奴ら、持久戦に持ち込む気だ!」

ルキウスが叫ぶ。

カエソは短く首を振った。

「ここで消耗すれば終わりだ……突破する!」


カエソは前列の兵に命じ、大盾で一斉に前進させる。

狭い峡谷で退路を塞がれた敵騎兵は後退できず、逆に押し潰される形となった。

その瞬間、カエソ自身が盾を捨て、グラディウスを抜いて飛び出す。


「押し込め!」


重装歩兵の列が一気に崩れ込み、敵騎兵は狭い地形で馬を動かせず混乱に陥る。

岩場の上からはルキウスが矢を放ち、逃げ場を探す指揮官を狙い撃った。

矢が喉を貫き、指揮官が落馬した瞬間、敵陣は総崩れとなった。


谷を覆っていた砂煙が収まり、残るのは呻き声と血の匂いだけだった。

カエソは剣を拭い、短く息を吐いた。


「……これで少しは進軍の時間を稼げる」


だが彼の表情は晴れなかった。

敵は斥候に過ぎない。

この先には、もっと大きな嵐が待っている──そう確信していたからだ。

小規模ながらも、これは東方戦線での最初の衝突。

そして、この勝利は次に訪れる「大規模な包囲戦」への布石となります。

次回は、国境要塞に迫る本隊との決戦前夜を描きます。

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