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皇剣 〜ローマ戦乱記〜  作者: 辰桃
第一章 北の狼、ドナウに吠える
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第三話 初陣

初陣。それは兵士にとって一生忘れられない戦いとなる。

村を焼かれた少年カエソは、初めての戦場で血の匂いと仲間の悲鳴を味わう。

そして、戦場の恐怖を越えて生き残るための第一歩を踏み出す。

西暦176年、夜明け前のパンノニア。

鈍色の空に霧が垂れ込め、吐く息は白く、地面は凍りついている。

カエソは革鎧を締め、槍を握った。手のひらは汗で湿っているが、指の震えは抑えていた。


「起きろ、小僧」

背後から響いた低い声。百人隊長ルキウス・ウルスだ。

「今日は初陣だ。敵はドナウを越えてきたマルコマンニ族。村を襲った連中かもしれん」

その言葉に、カエソの胸の奥が熱くなる。


ラッパの音が低く響き、百人隊が整列する。

分厚い盾スキュタム、鋭い槍ピルム、腰には短剣グラディウス。

革の匂いと金属のきしむ音が混ざり合い、兵士たちの息遣いが重く響く。


やがて森の奥から、獣の唸りのような声が近づいてきた。

「ウオオオオオオ!」

霧を割って現れたのは、毛皮をまとい巨大な盾と斧を構えたゲルマン戦士たち。

目は血走り、唾を飛ばしながら突進してくる。


「ピルム、投げろ!」

ウルスの号令と同時に百の槍が飛び、敵の盾を貫いた。だが奴らは怯まない。盾ごと槍を叩き落とし、巨体で突っ込んできた。


「盾を合わせろ! 壁を作れ!」

カエソはスキュタムを押し付ける。重い衝撃が全身を走り、腕が痺れる。斧が盾に食い込み、木片が顔に飛ぶ。


隣でマルクが槍を突き出し、敵の腿を貫いた。

「カエソ! 右だ!」

振り返ると、毛皮の巨漢が剣を振り下ろしてきた。

盾を傾けて刃を滑らせ、反撃の短剣を敵の腹に突き立てる。温かい感触が手を包み、鉄臭い血の匂いが鼻を満たした。


戦いの渦中、悲鳴が響く。マルクの足に長槍が突き刺さっていた。

敵が斧を振り下ろす寸前、カエソは盾で体当たりし、奴を押し倒す。

だが背後から別の戦士が迫る。振り返る暇はない。


「カエソォォ!」

ウルスの槍が敵の喉を貫いた。

「戦場じゃ後ろを見ろ! 生き残りたけりゃな!」


やがてゲルマン軍は撤退した。

戦場は雪と血に覆われ、仲間の亡骸が横たわっている。

カエソは剣を握りしめたまま立ち尽くした。手は血に濡れ、震えが止まらない。


ウルスが肩に手を置く。

「初めて人を殺した顔だな。慣れるな。だが恐れるな。それが兵士の道だ」

その言葉を胸に、カエソは心の中で誓った。

もっと強くならなければ──仲間を守るために。

第三話では、カエソの初陣を描きました。

キングダムのような戦場の熱と緊張感を意識し、盾の衝撃や血の匂いまで細かく描写しています。

次回は戦後処理と軍営での静かな一幕。そして、次なる大きな戦乱の火種が芽を出します。

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