第十二話(第29話) 東方からの急報
今回は政治編の直後、再び戦場編への扉が開く回です。
東方国境の情勢は緊迫しており、現地防衛は時間との勝負。
しかし帝都の政治は即応性に欠け、戦場経験者にとっては歯がゆい状況です。
票決の翌日。
まだ議場のざわめきが帝都の空気に残る中、カエソは軍本部の執務室で報告書に目を通していた。
そこへ、甲冑のまま駆け込んできた伝令が、息を切らしながら叫ぶ。
「将軍──東方国境から急報です!」
差し出された封蝋には、シリア方面軍の印。
カエソが封を切ると、中の羊皮紙には短く、しかし重い言葉が並んでいた。
──アルメニア方面、パルティア軍大規模侵攻。
──国境要塞、三日持たず。
──援軍、至急要請。
カエソは眉をひそめ、地図を広げた。
シリアとアルメニアの国境地帯は山岳と渓谷が入り組み、補給も困難な地形だ。
防衛戦は時間との戦いになる。
そこへクラウディアが入ってきた。
「元老院はまだ動いていないわ。票決の疲弊で、即応部隊の派遣に消極的よ」
ルキウスも顔を出し、低い声で言った。
「影の派閥は、この混乱を利用するだろうな。お前を行かせずに戦線が崩れれば、再び責任を押し付けられる」
カエソは迷わなかった。
「なら、動くしかない。命令を待たずに、志願兵と精鋭を集める」
クラウディアの眉がわずかに動く。
「命令を待たずに動けば、軍規違反になるかもしれない」
「それでも、戦場は待ってくれない」
その言葉に、ルキウスが口元を歪めた。
「……やれやれ、また面白い戦になる」
その日の夜、カエソは密かに部隊編成を開始した。
東方の地で待つのは、未知の敵と、帝都から伸びる影の手──。
この回でカエソは再び「規則か、生存か」の二択を迫られます。
帝都の思惑を無視してでも戦場へ向かうことが、彼にとっては生き残る唯一の道──そしてそれは、新たな敵との対決を意味します。
次回は、東方戦線への密行と、現地での想定外の遭遇戦を描きます。