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皇剣 〜ローマ戦乱記〜  作者: 辰桃
第二章 帝都の影
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第十一話(第28話) 票決の駆け引き

今回は古代ローマの元老院における票決戦を描きました。

単なる多数決ではなく、背後の商業利権や軍事契約が票を左右する構造は、史実でもよくあった現象です。

カエソは戦場と同じく、この政治戦でも“局面の読み”を活かしました。

元老院の票決は、単なる多数決ではなかった。

各派閥の思惑、背後にある商人や軍の利権、そして血縁や婚姻による複雑な人脈が絡み合い、結果を左右する。


今回の票決は、カエソの「臨時指揮権発動の是非」を問うもの。

表向きは軍規の問題だが、実際はカエソを元老院から追い出す口実に他ならなかった。


——


投票前夜、クラウディアはカエソを連れて、とある貴族邸へ向かった。

門前には馬車が並び、ローマ有数の豪商や中堅貴族が集まっている。

彼らは政治家ではないが、票を握る議員たちの財布を握っていた。


「ここで味方を作るのよ」

クラウディアが囁く。

豪商の一人、ガイウス・マルケッルスは葡萄酒を傾けながらカエソに近づいた。

「ドナウ戦線と補給路防衛……見事な戦いぶりだったな。

だが将軍、あなたは元老院の票をどれだけ動かせる?」


カエソは正面から視線を返した。

「戦場では剣で敵を動かす。だが明日の戦場では、真実で人を動かす」


その一言が、場にいた何人かの耳を引きつけた。

クラウディアが素早く彼らと条件交渉を進める。

兵の雇用、補給契約、商隊護衛の優先権──

戦場での実績が、票を動かす通貨に変わっていった。


——


翌日、元老院。

議場中央で、議長が票決の開始を告げる。

一人ずつ名を呼ばれた議員が、賛成か反対かを宣言していく。


影の派閥に属する者たちは、当然のように「反対」を口にする。

だが中盤、予想外の動きがあった。

昨日、豪商の宴で会った議員たちが次々と「賛成」に回り始めたのだ。


結果は──僅差で「カエソの行動は正当」と認められた。

議場にざわめきが広がる中、影の派閥の幹部が無言でカエソを見据える。

その瞳は、敗北の色よりも、次の一手を企む光で満ちていた。

これでカエソは元老院からの追放を免れましたが、影の派閥が諦める気配はありません。

むしろ今回の僅差は、彼らに次の攻撃の口実を与えたともいえます。

次回は、政治戦の直後に訪れる予期せぬ急報──新たな戦線への出陣が始まります。

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