第十話(第27話) 勝利の代償
今回は戦場から再び政治の舞台へ。
勝利を得たはずのカエソが、帝都では逆にその勝利を武器にされ、攻撃を受ける構図になりました。
古代ローマでは、軍事的功績は同時に政治的脅威ともなり、将軍は常に味方からも警戒される存在でした。
山道での補給路防衛戦から十日後。
カエソは戦果報告のため、再び帝都ローマへ戻った。
勝利の報はすでに市中に広がっており、大通りには市民や兵士たちが集まり、凱旋する彼を称えた。
だが、元老院の空気は違った。
議場に足を踏み入れた瞬間、いくつもの視線が彼を刺す。
その中には称賛の光もあったが、それ以上に計算と警戒の色が混じっていた。
「カエソ将軍、見事な勝利でした」
皇帝派の重鎮であるルキウス・ウァレリウスが口火を切る。
「しかし、今回の出陣は元老院の正式な承認を経ず、臨時の指揮権で行われた……これは先例を乱すことになりませんか?」
別の議員が続く。
「加えて、補給路防衛のために配された兵力の一部は、他戦線から引き抜かれたものだ。その影響は?」
──勝利を称えるはずの場が、再び尋問の場に変わっていく。
カエソは落ち着いた声で答えた。
「補給路を守れなければ、どの戦線も戦えません。
兵力の再配置は必要な判断であり、今回の勝利がそれを証明しています」
議場がざわつく中、後方でクラウディアが視線を送ってきた。
その目が告げている──「ここからが本番よ」。
会議後、廊下でルキウスが待っていた。
「やつら、今度は“手続き違反”を理由にお前を追い落とすつもりだ」
カエソは短く息を吐いた。
「戦場じゃ、敵は正面から斬りかかってくる。だがここでは、背中から刃を突き立てるんだな」
その時、クラウディアが低い声で告げた。
「影の派閥が動いたわ。次は……おそらく元老院内での票決戦になる」
帝都での次の戦場が、静かに幕を開けようとしていた。
この回で、カエソははっきりと理解します。
帝都の戦いは、戦場以上に終わりが見えない。
そして、影の派閥は一度敗れても形を変えて迫ってくる。
次回は、元老院で行われる票決戦と、その裏で仕掛けられる駆け引きを書きました!