第八話(第25話) 動き出す補給路戦線
今回は政治の駆け引きから軍事行動へ移る回です。
ローマ帝国の補給戦は、兵站の成否が戦争の勝敗を左右する重要な要素であり、今回もそれを軸に作戦が動きます。
戦場経験を持つカエソだからこそ、敵の思考を逆手に取る策が生まれました。
ルキウスが流した噂は、三日もしないうちに帝都全体へ広まった。
──パルティアの密偵が、東方遠征軍の補給路を狙っている。
この情報は軍本部にも届き、元老院でも議題に上がった。
そして、影の派閥に属さない数名の議員が口を揃えて提案する。
「補給路防衛には、ドナウ戦線で補給部隊を守り抜いた者を派遣すべきだ」
その言葉が、カエソの名を議場に呼び戻した。
影の派閥も表立って否定はできない。
反対すれば、「防衛を軽視している」と市民や他の派閥から糾弾されるからだ。
こうしてカエソは、臨時の指揮権を与えられ、補給路防衛任務に就くことが決まった。
——
作戦会議は、ローマ東部の軍本部で行われた。
長机の上には、地中海からユーフラテス川までを描いた地図が広げられている。
赤線で示された補給路は、アナトリア半島の要衝を縦断していた。
クラウディアが説明する。
「補給隊は二隊に分けるわ。第一隊は正規の街道を、第二隊は古代からある山道を通る。
敵が狙うのはおそらく街道側……でも、そこで戦力を割かせて、山道側で本隊を通す」
カエソは地図を見つめながら、首を振った。
「逆だ。奴らは俺たちがそう考えると踏んで、山道を狙う。
街道は見せ玉、山道こそが真の狩場になる」
ルキウスが笑った。
「まるで奴らの頭の中を覗いてるみたいだな」
カエソは淡々と答える。
「戦場じゃ、俺も同じことをやった」
作戦は修正された。
山道側にカエソと精鋭を伏せ、街道は陽動とする。
もし敵が山道に現れれば、その時点で戦場はローマ軍に有利になる。
——
任務出発の日、朝靄の中で兵たちが列を成す。
街道と山道、二手に分かれる瞬間、カエソはルキウスに目で合図を送った。
「さあ……影を釣り上げるぞ」
帝都での密議が、そのまま戦場の布陣へと繋がる。
政治と軍事は別物ではなく、むしろ切り離せない関係であることが、この任務で浮き彫りになりました。
次回は、山道での伏兵戦──カエソが読み切った敵の罠を、どう崩すか!