第二話(第19話) 夜の刃
今回は戦場ではなく、帝都の裏通りでの命懸けの戦いです。
敵は鎧も盾も持たず、代わりに影と毒を武器にしてくる。
しかもその背後には、正体不明の黒幕がいる。
戦場での勝利が、必ずしも帝都での安全を意味しないことがはっきりしました。
帝都に戻って二日目の夜。
カエソは兵舎近くの路地を歩いていた。
昼間の喧騒は消え、石畳を踏む自分の足音と、遠くから聞こえる酒場のざわめきだけが響く。
だが、その中に──異物のような気配があった。
背中を這うような冷たさ。戦場で何度も感じた「殺気」だ。
「……来る」
次の瞬間、闇から黒い影が飛び出した。
細身の短剣が月光を反射し、一直線にカエソの喉を狙う。
反射的に身をひねると、肩口に浅い切り傷が走った。
暗殺者は間髪入れず二撃目を繰り出す。
カエソは盾も鎧もないまま、相手の手首を掴み、石壁へ叩きつけた。
だが軽やかに反転した暗殺者は、もう一本の短剣を抜く。
狭い路地での格闘。
金属がぶつかる乾いた音が何度も響き、石畳に火花が散る。
最後にカエソは敵の腕を極め、短剣を奪った。
「誰の差し金だ!」
問い詰めると、暗殺者は唇を歪めた。
「……帝都には、お前を生かしておきたくない者が多い」
次の瞬間、口の中の小瓶を噛み砕き、血を吐いて崩れ落ちる。
毒だ。
路地の奥から足音が近づく。
現れたのはクラウディアだった。
「間一髪ね……カエソ、帝都の戦は剣の速さじゃなく、動き出す前に勝負が決まるの」
その声は静かだったが、瞳には戦場以上の冷たさが宿っていた。
ここから帝都編は一気に緊張感が高まります。
暗殺者が命を賭してまで伝えた「お前を生かしておきたくない者が多い」という言葉──その意味を探ることが、次の物語の軸になります。
次回は、この事件をきっかけにカエソが帝都の裏社会と接触します。