第一話(第18話) 帰還、揺れる首都
ここから舞台は帝都ローマ。
剣と盾ではなく、言葉と策略が命を左右する戦いが始まります。
戦場よりも複雑で、味方と敵の境界が曖昧な世界。
カエソは戦う武器を“剣”から“頭脳”にも変えていく必要があります。
ドナウ戦線から三週間後。
カエソたちは傷ついた兵と共に補給部隊に護送され、首都ローマへ戻った。
石畳の大通りは市民で溢れ、戦場帰りの兵を称える声と、物見高く眺める視線が交じり合っていた。
だが、その熱気の裏には妙な違和感があった。
人々の口にする噂の多くは、ドナウ戦線の勝利ではなく──元老院と皇帝派の対立についてだった。
「……戦場が終わっても、別の戦が始まってるってわけか」
マルクが低く呟く。
カエソたちは軍本部で戦果報告を行ったが、出迎えたのは冷ややかな視線の元老院議員たちだった。
「補給船は守ったが、積荷は一部失われた」
「包囲を突破したが、損害は多い」
言葉の刃が、戦場の傷よりも鋭く突き刺さる。
会議後、クラウディアがカエソを廊下に呼び止めた。
「気を抜かないで。帝都では剣よりも舌が人を殺すわ」
その瞳には、戦場とは違う種類の警戒が宿っていた。
夜、カエソは宿舎の窓から街を眺めた。
灯火の奥で、何者かが彼らを見ている気配がする。
戦場で感じた冷たい視線──だが、今のそれは人間の策略の匂いがした。
第二章は完全に空気が変わります。
戦場帰りの英雄も、帝都では政治の駒の一つに過ぎない。
次回は、早くもその冷酷な現実を突き付ける出来事──暗殺未遂事件です。
ブックマークや評価で応援していただければ、この政治と陰謀の章をさらに濃く描きます。