第十七話 斜面の死闘
第一章の山場、ついにカエソとアールヴの本格的な一騎打ちが実現しました。
斜面という不安定な地形、泥の中での駆け引き、そして互いに一歩も引かない意地のぶつかり合い──まさに命を懸けた戦いです。
斜面の土は湿り、足を踏み込むたびに泥が飛び散る。
その不安定な地形の上で、カエソとアールヴは互いに武器を構えた。
背後では仲間たちが突破口を押し広げようと戦っているが、二人の間には他の兵の影はなかった。
「ここを抜ければ、お前たちは生き延びる」
アールヴの声は低く、しかし冷たい決意を帯びていた。
「だが俺は通さない」
カエソは答えず、盾をわずかに傾けて距離を詰める。
次の瞬間、槍の穂先が閃き、斜面の泥を裂いた。
カエソは盾で受け流し、泥を蹴り上げながらグラディウスを振るう。
刃と刃がぶつかり、甲高い音が斜面に響く。
槍の間合いと剣の間合いが交錯し、一歩間違えば即死の距離だ。
「お前は戦場で鍛えられてきた……だが森は俺の庭だ!」
アールヴが斜面を滑るように回り込み、背後を狙う。
カエソは反転しながら盾を振り払い、すぐさま踏み込む。
泥で足を取られながらも、その勢いは止まらない。
互いに呼吸が荒くなり、額から汗が流れる。
遠くからウルスの声が響いた。
「カエソ! 抜けろ!」
その声に反応し、カエソは最後の一手に出た。
盾を突き出し、アールヴの槍を絡め取って引き寄せる。
一瞬、敵の動きが止まった──その隙にグラディウスが閃き、アールヴの脇腹を切り裂いた。
短い呻きと共に、アールヴが後退する。
だが倒れず、血を押さえながら冷笑を浮かべた。
「今日は退く……だが、次は必ず首を取る」
そう言い残し、彼は森の闇に消えた。
突破口は開かれ、ローマ軍は包囲から抜け出した。
だがカエソの胸の中には、勝利ではなく、次の戦いへの熱だけが残っていた。
これで森の奇襲戦は終結し、第一章の戦いはひと区切りとなります。
アールヴは撤退しましたが、両者の決着は持ち越し。
第二章では、ローマ内部の政治闘争と、新たな戦線の開幕を描きます。
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この物語はさらに広がり、戦場も政治の場もより激しくなります。