第十三話 船上決戦の決着
揺れる船上、狭い甲板、滑る足元。
そんな不安定な舞台での一騎打ちは、戦場以上に神経をすり減らす。
しかもアールヴはただ戦っていたのではない──仲間が積荷を奪う時間を稼ぐための戦術だったのだ。
この回は「戦いながら戦術を読む」緊張感を全開にしています。
補給船の甲板は、血と水で滑りやすくなっていた。
水飛沫の冷たさと血の生暖かさが足裏で混ざり合い、船が揺れるたびに体勢が崩れる。
それでもカエソは盾を構えたまま、アールヴから視線を外さなかった。
アールヴは槍を片手で扱い、もう一方の手には短剣。
まるで両方が自分の体の一部であるかのように滑らかに動かす。
「ローマの剣よ、お前は強い。だが、この揺れる戦場で俺を止められるか?」
突きが来た。
槍先が風を裂き、カエソの頬をかすめて帆柱に突き刺さる。
引き抜かれる瞬間、短剣が低い軌道で腹を狙ってきた。
カエソは咄嗟に盾を下げ、刃を受け止める。金属のきしむ音が耳を突いた。
「ふっ……やるな」
アールヴが笑みを見せる。だが、その目は笑っていなかった。
その時、背後からマルクの怒声が響く。
「船尾に敵舟が接近! 積荷を守れ!」
振り返ると、別の敵舟が接舷し、ゲルマン戦士が次々と乗り込んできていた。
アールヴは一瞬その方向に視線を向けたが、すぐにカエソに刃を戻す。
「俺が時間を稼ぐ。仲間が積荷を奪う」
──しまった、これが奴の狙いか!
カエソは攻めに転じた。
盾で槍を押し払い、一歩踏み込んでグラディウスを振り下ろす。
アールヴは後退せず、槍を横に滑らせて刃を逸らし、逆に短剣を喉元へ──
その瞬間、カエソは盾を投げ捨て、素手で槍の柄を掴んだ。
「離せ!」
アールヴが体をひねるが、カエソは力で押し込み、二人とも甲板に倒れ込む。
揺れる船上で取っ組み合いとなり、互いに刃を突き立てようとする。
だが、川上から角笛の音が響いた。
ローマの増援船だ!
敵舟が動揺し、積荷を奪っていたゲルマン戦士たちが次々と川へ飛び込む。
アールヴは短く舌打ちし、カエソを突き飛ばした。
「今日は引く。だが次は、沈めてやる」
そう言い残し、川へ身を投げた。
水飛沫の向こう、彼の姿はあっという間に霧に溶けて消えた。
補給船はかろうじて守られた。
だがカエソの手は震えていた。それは恐怖ではなく、まだ戦いの最中にある感覚だった。
──決着は、必ず自分の手でつける。
「一騎打ちの迫力」と「全体戦術の駆け引き」を同時に描ける回になりました。
補給船は守られたが、アールヴは損害を最小限にして撤退。
つまり、この戦いはまだ途中だということです。
次回はこの戦の報告と軍議、そして再び動き出す北の狼の策を描きます。
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