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皇剣 〜ローマ戦乱記〜  作者: 辰桃
第一章 北の狼、ドナウに吠える
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第十一話 霧の中の再戦

第十一話では、補給路防衛戦の第一波撃退戦を濃密に描きました。

ドナウ川沿いの春霧は、戦場の全てを飲み込んでいた。

地面に染み込んだ血の匂いと、湿った土の匂いが混ざり合い、肺の奥に重く沈む。

耳を澄ませば、霧の奥で低く響く太鼓の音──まるで獲物を追う獣の心臓の鼓動のようだった。


カエソは盾を握る手に力を込めた。

霧の白の中、ぼんやりと人影が揺れる。

それは、前回の遭遇戦で見たあの男──金髪の若き指揮官、アールヴだった。

彼の背後には十数名の精鋭が控え、丸盾と長槍を構えている。


「また会ったな、ローマの剣」

霧を割るように響く声。

挑発ではなく、宣言のような響きだった。


カエソは答えない。

スキュタムをわずかに前へ出し、腰を落とす。

アールヴも同じように槍を水平に構え、距離を測っていた。

二人の間を、重い沈黙が流れる。


最初の一歩を踏み込んだのは、アールヴだった。

槍の穂先が霧を切り裂き、カエソの喉元を狙う。

咄嗟に盾で受け流すと、金属がぶつかる甲高い音が耳を刺した。

反撃に踏み込むが、アールヴは槍を素早く引き、柄でカエソの脇を叩く。

鈍い衝撃が走り、息が詰まった。


「まだ動けるか?」

一瞬の間に、再び突きが迫る。

カエソは左足を引き、盾を斜めに構えて刃を滑らせ、そのまま腰のグラディウスを振り抜いた。

霧の中で火花が散り、金属同士が激しく噛み合う。


周囲では仲間たちも必死に戦っていた。

矢羽が唸りを上げて盾に突き刺さり、ゲルマン戦士の斧が木片を飛ばす。

マルクの叫び声が混じり、どこかで兵士の悲鳴が上がる。

戦場の全ての音が渦を巻き、耳の奥で鳴り続けた。


三度目の斬撃。

カエソの刃がついにアールヴの肩をかすめ、赤い線を刻んだ。

だがアールヴは痛みをものともせず、わずかに笑みを見せる。

「いい刃だ……だが今日はここまでだ」


太鼓の音が合図のように鳴り響く。

北の狼たちは一斉に後退を始め、霧の奥へと消えていく。

カエソはその背中を睨みつけたまま、荒い息を吐いた。

決着は、まだ遠い。

この回は、単なる一騎打ちではなく戦場全体の空気も感じられるよう意識しました。

防衛戦はまだ続き、次回は敵が戦術を変えて第二波を仕掛けてきます。

その狙いは補給船──クラウディアたち後方部隊が戦いの中心になります。

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