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拝啓 傷だらけのきみへ捧ぐ愛の殺人  作者: 葉方萌生
第一章 ミステリ研究会の幽霊調査
2/82

1-1

 九月三日水曜日の朝、窓から吹き込む風はまだ夏のそれで、もわりと私の頬を撫でる生ぬるさに、思わず息を止めた。クラスメイトたちが一人、また一人と三年D組の教室に入ってくると、窓を開けた張本人あろう私にじっとりとした視線を向ける。

 はいはい、閉めればいいんでしょ。

 誰に言われたわけではないけれど、窓をきっちりと閉じる。代わりに教室内のエアコンをオンにした。

 二学期が始まってそろそろ一週間が経とうとしている今日、いつもと変わらない、なんでもない一日の始まりを迎えるはずだった。

 

 ガラガラガラッ——

 

 勢いよく開かれた教室の扉の音で、はたと顔を上げる。ドタドタと教室に入ってくる、見慣れない顔ぶれに、読んでいた本に栞を挟んだ。


「大変だ! 幽霊が出たぞっ」


 朝から耳にキンキンと響く男子生徒の声。入ってきたのは男子二人、女子二人の四人組だった。近くにいたクラスメイトたちの、「今日の一限、数学の小テストだよね」「だるぅ」と会話していた声がかき消される。


「幽霊? なんだ急に。あいつら、確かA組の人たちだよね」


 誰かがそっと囁く声がしたかと思うと、D組の教室の中でキョロキョロとあたりを見回していたA組の四人が、ばっちりと私に目を合わせてきた。

 え、私?

 同じ三年生なので見たことのある顔ぶれではあるけれど、二年の時に文理選択で文系クラスに所属した私には、理系クラスであるA組のみなさんの顔と名前ははっきりと一致しない。


「あ、いたいた。きみ、小泉明日奈(こいずみあすな)ちゃんだよね?」


 ガタイのいい男子生徒と一緒にいた、もう一人の小柄な丸刈りの男の子の方が訊いてきた。


「は、はい。そうだけど……」


 私に何か用!?

 というか、なんでA組の人たちが? どこかで縁があった人たちでもないはずなんだけど……。


 胡乱な視線を送るのにも構わずに、ドタドタと窓際の前から三番目にいる私の席へと押し寄せてくる四人。思わず身体を反らす。な、なんだこの圧力……! ちょっと暑苦しいし、私の朝の読書時間はいずこへ……。


「小泉さん! あの、きみってミステリ研究会だよね!? ちょっとオレたちの話、聞いてくれない?」


 丸刈りの男子がキャンキャンと吠える。そもそもこの人の名前なんだっけ……とこめかみを掻いたところで思い出す。


「えっと、確か小峰くん、だっけ。話ってなに?」


 困惑気味に問うと、彼は——いや、彼らはみんなで一斉にずいっと私の方へと再び身を乗り出してきた。ち、近い……! あなたたち、パーソナルスペースって知ってる? と聞きたくなるぐらいの距離の近さにぐぬぬ、と唸る。


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