1-18
「……鶴見さんは、坂入さんがいなくなって精神的にずっと不安定なんだ。だから許してあげて」
困ったように笑う高見沢先生も、大切な部員の一人だった来海がいなくなったことを、悲しみとともに胸に抱えている様子が窺えた。
「すみません。興味本位とかじゃないんです。私たち本当に、来海のことをもっとよく知りたくて」
「そうかい。坂入さんの絵は美術準備室に大切に保管している。鶴見さんも、坂入さんの絵を探しに来たんだ。彼女のクラスは文化祭で美術展示をするみたいで、そこに坂入さんの絵も展示するらしい」
「そうだったんですね。じゃあ来海の絵は鶴見さんたちが持って行ったんでしょうか?」
「いや、全部じゃないからまだあるはずだ。部員ごとにロッカーがあるから、そこから自由に見ていいよ。持ち出しは許可が必要だから、持ち出す際は僕に教えてくれ。じゃあ僕はこの辺で職員室に戻るよ。鍵は後で職員室に返しといて」
「分かりました。ありがとうございます」
書類を抱えたまま、高見沢先生は美術室をあとにした。
文也と顔を見合わせて、どっとため息を吐き出す。
「鶴見さんは、ずいぶん気が滅入っていたようだね。たぶん、幽霊騒動の幽霊が坂入さんなんじゃないかってみんなが噂してること、本当は知っていたんだと思う」
どこか湿った声色で文也がつぶやいた。
そうなのかな。莉世はみんなが幽霊のことを来海だと騒いでいること、本当に知ってたんだろうか。でも確かに、来海と仲が良かった莉世が、今回の騒動で来海だと騒がれているのに気づいていないほうが不自然か。
私と話をしている時のあの苛立ちようを見れば、彼女が来海に対して並々ならぬ想いがあることは間違いない。
「来海の絵、見てみない?」
ひとまず、今ここにはいない莉世の気持ちを推測するのはこの辺でやめておく。私たちが今日美術室にやってきたのは、来海のことをもっとよく知るためだ。
「うん、そうしよう」
高見沢先生に教えてもらった通り、美術準備室の中へと足を踏み入れる。いくつか並んでいるロッカーに「坂入」と名前のシールが貼られた扉が見つかった。
「失礼します」
なんとなく、来海に見られているような錯覚に陥って、恐る恐るロッカーの扉を開けた。
中に入っていたのはいくつものスケッチブック、小さめのキャンバス、画材。私は、A3サイズのスケッチブックを取り出して、表紙をめくってみた。
一ページ目に描かれていたのは、青色の蝶が青色の花に向かってひらひらと宙を舞う絵だった。水彩タッチでやさしくやわらかな光景が広がっている。蝶と花の後ろには花畑と空が絵全体に奥行きを生み出していた。スケッチブックにのせられた色はすべて、青色。
「これ……」
見たことがある。
確か二年生のとき、来海が教室でこの絵を描いているのを見た。その日、四限目の美術の時間に風景画を描くという授業が行われた。来海は、四限目の後、昼休みに突入してからも、食事を摂ることも忘れて絵を描くのに没頭していたのだ。