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拝啓 傷だらけのきみへ捧ぐ愛の殺人  作者: 葉方萌生
第一章 ミステリ研究会の幽霊調査
15/82

1-14

 週が明けて、四月二十一日月曜日の朝。

 先週の金曜日とは違ってカラリとよく晴れた日だった。

 二年生の頃から一度も学校を休んだことがなかった来海の席が空席になっていることに気づく。妙な胸騒ぎがした。磯村先生が教室に入ってくると、彼は朝のHRで鎮痛な面持ちを浮かべながら、こう言った。


「坂入さんが、清鳥川で事故に遭った。保護者によると、亡くなった可能性が高いそうです」


 先生の言葉に、クラスの空気が一瞬凍りつき、ザワザワと揺れる。

 いま、先生はなんて……?

 来海が、亡くなった?

 川で事故に遭ったって……? 


 クラスじゅうの人が同じ疑問を抱いただろう。

 当たり前に今日も教室にいるはずの来海がその場にいないのは間違いないのに、先生が、来海は亡くなったと言ったのが、あまりにも現実離れしているような気がして仕方がなかった。


 それからのことはあまり覚えていない。

 その場で泣き崩れる女子や、嘘だろと叫ぶ男子もいたが、私はそのどちらにもなれず、ただ茫然と混乱する教室で息をするだけで精一杯だった。


 事故の詳細については、それから一週間かけてニュースや校長先生の話の中で理解した。

 四月十八日金曜日、午後六時ごろにSNSで「消えたい」とつぶやき、その日の夕方から夜にかけてまだ雨が激しい間に自宅から出た来海は家に戻ることはなかった。来海の家は片親で母親のみだが、その母親はその日は夜中まで家を留守にしていたらしい。理由は詳しくは知らないが、来海が家から出た時間に、彼女の自宅には誰もいなかったと思われる。だから、家を出た時間は推定時刻に他ならない。


 夜中、家に戻った母親は来海がいないことに気づいたが、その時は通報も何もしなかった。この点も気になるところではあるが、日頃から放任タイプの親だったのかもしれない。高校生の娘が大雨の日に一晩帰ってこないのはかなり問題な気がするけれど、私がとやかく言っても仕方がないことだ。とにかくその日、母親は来海の不在について知りながら、特に何もしなかった。ニュースでのインタビュー映像を見たけれど、「前にも夜中帰ってこないことがあったから、今回もその時と同じだと思った」と粛々と話していた。


 夜が明けて、来海の母親もいまだ帰ってこない娘を思い、ようやくそこで警察に行方不明届を出す。二日間に渡る警察の調べで、清鳥川の上流の山奥で、来海の靴と鞄、その上に遺書のようなものが置かれていたことが発覚した。遺書にはぐにゃりと歪んだ字で「ごめんなさい。探さないでください」と書かれていたらしい。


 直前のSNSでの「消えたい」という投稿や遺書などの状況から、警察は来海が入水自殺をしたのだと結論づけた。その後も来海の捜索に尽力したが、一週間経った今も遺体が見つかっていない。小さな町なので、行方不明として、その後警察は調査を縮小。葬儀は家族だけでひっそりと行われたようなので、私たち三年D組の誰も、彼女の遺影すら見ていなかった。


 だからこそ、私たちの中で、来海の死が消化不良のままなのかもしれない。

 亡くなったと聞かされたのに、誰も眠っている来海の姿を見ていない。遺影すら目にしていないのだから、来海の死を実感するのに時間を要した。

 五ヶ月経ったいま、ようやくみんな、来海のいない日常を受け入れつつあったのだけれど……。

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